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兎死狐悲、亦は狐死兎泣 11-2

「質問を伺いに来た、と先ほど申し上げました。忘れていたのであれば、はい、確認のために答えましょうか?」
「いちいち気に障る言い方っ」サイドテーブルが小気味よく音を立てた。まるでそうず。「過去を蒸し返す暇があるのかしら。次の襲われるのは私たちかもよ?」
「その点は心配無用でしょう」
「店員ふぜいが何でそこまで言い切れるのぉ?」室田の眉は角度に変化をつけ連動する額の細い皺も後押しに加わる。ねじる首をわずか前方に落とすよう突き出す。舞台上で踊る役者を彷彿とする構え。
 美弥都は速度を切り替える。「まず、店員の知的水準は務める人物によりけりでしょう。医者が一定の頭脳指数を誇るのは事実でしょうが、では店員にあなた方の職種と等しく試験と研修、就学期間を設けると単純サービスで済むケースにもすべて資格が立ちはだかる。都会では成り立ちます、雇用不足にえり好みはしていられない、しかも資格を持っていると仕事にありつけるのです。ただし、田舎、地方のたとえばこのホテルの近辺ではというと、町おこしに週末のみ地元の食材をより集め海産、農産物を売り出す市場の臨時開業にも、資格のわずらわしさがついてまわる。行き届いたサービスを必要としない、飲み物や煮る焼く炒める温めるの簡易な料理を食べるに足る個人のスペースが確保されて雨露がしのげ風を遮る建物、それぐらいの、最低限で良いのです」
「私が悪かった、はいはい」彼女は両耳をふさいだ。恐怖に陥った際周囲の状況から目を背ける行為は更なる命取りになると思うのだ。しかも自分から撒き、水も与えた種を毛嫌いするとは、美弥都は室田の耳を貸す体勢が整うまで無駄な時間を過ごす。夏の日差しにベランダはすっかり熱を持っているだろうか、ふと屋外を眺める私は気を取り直した室田の話に聞き入る。かすれた声だった。