コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

兎死狐悲、亦は狐死兎泣 12-1

 八月九日夜


 朝にこれを書く。
 ある人が私を訪ねた。
「探偵をやっております、十和田と呼ばれてます。お父様のご依頼で伺いました」
「なんでしょう」
「これを渡してくれ。理由は聞くな」左手にぶら下がる包みを差し出された、紙袋だ、受け取る。
「そうですか」十和田は憮然、玄関口を立ちふさぐ。「まだなにか」
「僕の前で黙読をするよう仰せつかってまして」
「……どうぞ、せまいですが」
「お邪魔します。女性の部屋は何年ぶりかな」
 デスク用の椅子を差し出す私はベッドに座し、紙袋に手を入れ二冊の日記帖に目を通した。
 後悔の念にひどく気持ちは塞ぎ込む。一冊目でそれは察してたけれど、浅はかな私の予見とも思えたのであります。
 軽薄そうなお人、タバコの香りが染み付き染み出します。軽々持ち上げた椅子は人の子のごとく平時には見られない高さを味わう、そんな様子でした。
 持ち主へ返すのだそう、十和田はこちらの心情を慮り日記帖の顛末を告げてくださいました。
 したり顔、頬に刻む二本の深い縦皺にたくらみを私は連想せずにいられません。寝つきの良い私が天井とにらみ合いを小一時間も続けたのですから。
 狐が罠にかかります、兎がそこへ通りかかる、助けてくれよと懇願するも、質朴な兎は何事もなくその場を歩き去りました。鼬と今度はばったり出会います、そちらへ行ってはならない、罠が待ち構える、兎は忠告をしてあげました。兎は程なくしてあの時の狐と再会を果たします。ですが狐は眠そうに瞼を閉じおちょくるのか、滑稽なそしてひどく痩せたひらひらの体で人の背に逆さまにぶら下がるのでした。