コンテナガレージ

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鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 1-1

「ホテルのお姉さん、物知りね」日井田美弥都と室田海里は、植物観察の道中、遠矢来緋に出くわす。屋外で出会った彼女は海里の鋭い観察による服装の指摘を受け、休憩時間に男鹿山に入ることを吐露。それならばと海里は図々しく同行をせがむも、遠矢は二つ返事で承諾。行道で見かけた狼煙の正体は焼き物の釜が発信源らしい、砂礫質に疑問を示す回答は的確に返る。遠隔地から取り寄せるのでしょう、とのこと。これは美弥都の問い。
 つい先ごろである、彼女の車で登山口とホテルに通じる一本道まで送り届ける配慮を受けた、観光客を送り届け、駅に戻るタクシーに目を配りつつ日が落ち始める、くっきりと影の張り出す歩道をとぼとぼ進んだ。
 なし崩しが当てはまるか。美弥都は、譲渡された捜査権を行使することにした。強要を迫る機能は備え忘れ、これまで一度足りとも振るった記憶はないのだ。しかし実は楽しんでるのかもしれない。その証拠にクッション製の保冷シート内に耐熱携帯容器をしまう。

 軽く息が漏れた。

「あっ、お姉さんやっと笑った」速度を落とす数歩前を影をよけて飛び跳ねる海里と並ぶ。私は速度を維持し、彼女が止まったのである。
「笑わない、笑えない、とは一言もいってはいない」
「そういうのやせ我慢っていうの」
「あなたはお腹を空かせる。が、私に昼食をせがまない。そもそも朝食は食べたのですか?」丁寧に美弥都は言う。
「ダイエットよ。太目の人が世間の流行だけど、あれって嘘よ。私見ぬいてますもん、みんなの体重を減らしちゃったら、食べ物屋さんとか、そうよダイエット食品を買ってくれなくなるんだ」
「卓見です」
「タッケン?たっけん、……部屋に帰ったら調べる」疑問と寄り添う、解消・解決を習慣を持つ者が吐く言葉、海里は空腹を二の次に追いやり、節目がちに時には草むらの薄を数えるように見入ったりと自由に振舞う一方で、歩く速度はつかず離れず美弥都のペースを計る。二人は遠矢に教えられた駅への近道である畑の轍を通り、虫のコンサートホールへむやみに立ち入ってしまい演奏を延々聴かさる。夕暮れに浸る気配を察してから、空気は一挙に気温を下げた。
 駅にたどり着いた時、海里は美弥都の背に居場所を移していた。赤錆に食われる丸い乗り場案内の掲示はひっそり駅の電灯を一人で以って牛耳る、とは違うのか、嫌々光の当たる場所に引きずり出された奥手な少年に見えた。そっと木造駅舎のベンチに腰と荷物を下ろす。