コンテナガレージ

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鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 1-2

 起こすと損だ、美弥都はナマケモノをイメージ、自堕落な方ではない。胸元のポケットから喫煙道具一式を二つ指でつまみマッチを擦った。二本目のタバコを吸い始めた頃、タクシーをこのまま待つか、回復した脚力を使いホテルに戻るか二択を思い浮かべた時だった。
 車がうなりをあげて遠方から近づく、線路沿いの道は整備した時期が古くうねりが地質の影響受けるのかも、隆起がヘッドライトにあちこち指示、空を地面を照らす。
舞楽、ぶらく、ブラク。ヤマトリカブトはぶらくのときにえんそう者がかぶるぼうしににてる。ニリンソウは春にさいて白い花。夏前に林しょう、くらくて、ちじょうぶかれちゃう。だから八月見かける二つはかれてる、見わける」海里は寝言をつぶやく。「一つのくきから二りんがさく」
 一つから二つ……。姿同じとも中身は別人、べつじん、姿は一緒。
「乗りませんか?」見覚えのある顔だ。「ここで待っていても迎えのタクシーは自宅の車庫で明日の出番を待ってますよ」細面に不釣合いな皺くちゃの帽子を挨拶程度に真上に掴む男は探偵稼業を営んでいたはず、S市中心街を南に下った古びたビルに居を構える。髭は剃っているらしく室内灯に照らし出される陰影はつるつると女性がうらやむ白いきめの細か肌質が想像される、もち肌かどうかは車内の明かりでは判別しかねる、好んでだろう、淡い白色電球の濃淡にニヒルだがどこか軽薄さを取っ払う愛想の良さも兼ね備える。夫に望まれないタイプであり、恋人にも短期間の付き合いを期待される。美弥都は素直に誘いに乗った、彼は鈴木が話していた車を気前よく貸し与えた十和田である、との質問を後回しに背中の海里を揺すって起こし後部座席へ乗り込んだ。
 赤黒いボディだったか、頼りない駅舎が灯す明かりの際辛うじてボディカラーは目に留めてた。室内は革張り、いわゆる高級車である。地面を這う感覚だ、天井が高く抉り取られた局面はなんとも言えず絶妙に役割を弁える、これがより空間をと数センチ分を欲張った暁には下品にはや代わり。作り手は低中流家庭の出身か、王族や高級住宅街で成人を迎えた者たちの経済観念とは一線を画す。
「音が消えてる。しずかぁ」寝起きは良いらしい、海里はシートベルトを物ともせずドアに揃うボタンを関心を寄せる。試しに押してはその機能に感嘆の声を挙げる。私は監督者というわけではないので、注意は控える。まずもって私たちの血縁関係を運転手の優男は知らないはずだ。指摘を受けて私が臨時の監督者の役を演じれば良い。いやいや子守を任された、十和田にはそう見えているはずだ。