コンテナガレージ

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鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 1-3

「この車は電気で走る、タイヤを動かす動力はモーターだよ」
「知ってる。ミニ四くにのせるよのよね」
ミニ四駆って僕ら世代のブームだと思ってしましたけど、今も流行りなんですか?」
「さぁ。テレビを見ませんので」
「奇遇ですね、僕もテレビはうっぱらって。そうしたらこの間国営の料金徴収がやってきて、どうぞと部屋の中を隈なく見て回らせましたよ。傑作でしたねえ、まさかほんとにテレビが置いてないとは。PCの所有も訊いてましたよ、それで見てると指摘したかったようですが、あいにくと先月壊れてついでに通信回線も解約手続きにサイン、さっぱりとしたものですよ」
「受注は滞りなくですか……、それで」
「あなたの喫茶店も似たようなもんでしょう?」
「私の店ではありません」
「あなたらしい」
「お会いするのは初めてです、よろしくお願いします」
「参ったなあ、こうまで回転が速いと合わせるのにも一苦労、言ってくれればそれなりの反射を見せられる。今日は夜道にせいにしましょう」車は進路を変え、左手に迫る土手はかすかな記憶、通った道、行道で店長がぼやいていた地点である。十和田の放つ骨に響く低音の滞留時間が長く感じる。美弥都は無言の方がまだましに思えている、送迎のお礼は車が止まったそのときに一言告げれば良く、車内での無用な会話を約束した覚えはこれっぽっち一ミリたりともあってたまるものか。隣でひきしまった座席にお尻を打ち付ける少女は出会ってから無邪気さをようやく見せた。ただしこれは私たちへのアピールかもしれない、昔の私を思い出す。こうしていれば怪訝にあることをすらすら口する私に対する視線がいくらからほんの気持ち程度和らいだのだ。
 意識が途切れてしまった。気がつくと地下駐車場が車外に映し出される。隣の海里もいない。掻き消えた想像が構築する駆動音、海水に浸るみたいだった。営業後のガソリンスタンドとも言えるか、フロントの明かりを側面に駐車場の箱、車内の箱、目を閉じた私の箱。