コンテナガレージ

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鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 2

 弁護士さんにこの日記を渡す前に休憩の機会がございましたので、いつももてあます暇潰しに最適でありましょう、今日起こった騒動を書き加えることに致しました。ホテルを離れた、これはいつのことまで遡りましょうか、手繰り寄せるあたり相当月日が流れたかつて、と想像はとっさに言葉となって姿を現します。こうして書き留めることのほうにどうやら私の才は向いているらしいのです、読書感想文で一度賞を取りました、小学生のときです。以来所謂大人が好き好む読み物の傾向は掴めました、けれどそれっきり琴線をずらす書き方に努めたのでした。
 冷たい風が時折吹き込む、砂場を前にそこへ幅の広い滑り台、公園のベンチを執筆場所に選びました。失敗かもわかりません、ページをいたずらに風たちがめくるのですから。子供たちの気配も音も消えた園内は時が止まった感覚、私は好きです。ブランコは動いていなくては、という思い込みと錯覚が時間の停止、時が止まる世界に私だけが活動を許される、子供じみてるのです。本題を書き進めます、休憩と睡眠時間は時間の両端をはさみで切り落としつなぎ合わせたかのよう、それはそれは突然記憶を連結させ現実を見せ付けるのです。
 チェックインのお客様をお迎えし案内や食事処の提案等の応対がひと段落した頃にあれは、あれに胸を引き裂かれました。
 連れのお子様一名が行方をくらましたのです。館内をくぐり賞味二時間程度、屋外へは車両が必要です。またフロントには私たちが常駐しておりました、見落としたとは考えにくい。冷静さを失っておりましたお客様を宥め落ち着かせ、フロントに一名私が残ります。支配人と遠矢さん、家入さんは手分けして一階・二階を調べ宿にたどり着き、一息ついたところのお客様方へ事情を話しに支配人は各部屋を回りました。ですが、お子様は見つからず回廊では姿を見かけてはいないという証言でございました。このときお客様たちすべての客室の仕切る板はしまわれた状態でした。お子様が走り回っていればお客様のどなたかは目にしているはずなのです。不穏、一同の予感は今週始めの出来事を呼び寄せる。『ひかりいろり』に集まります。フロントにいた私に開錠権が譲渡されていましたので、息が切れて切れて。
 姿はありません。跡形もないとでも言いましょうか、ほかに言いようがありましょうか、衣服と麦藁帽子とピンクのサンダルが囲炉裏にぺたりへたり、それは吸い付いておりました。
 擦り切れて、囲炉裏はお子様をすっぽり囲う大きさであります、皆さん、すり潰されたと思ったらしいです。そうでしょうか、そうなのでしょうか。筒を通じる光のベールに私は誘われたのだと思います。見えませんか、見えたんですよ、垂れた弦を掴むお子様が。