業務日誌 八月十一日 担当<遠矢来緋>
背中は一様に丸い。応援要請、増員された捜索隊はホテルを林を山を後にする。
部屋にはお子様の着替えがそのまま残されておりました、囲炉裏にへたり込む着用していた衣服が見つかりましたので裸体を晒して捜索の範囲外へ足を運ぶなどは到底考え難い、警察からもれ聞こえる声をしたためました。
あっさり正午を皮切りに捜索打ち切りの旨が私たち係員に報告されました。
業務日誌は一段落ついた代わり代わりの数分の休憩を利用しペンを執ります。
一報を聞いた予約のお客様から(数名ですが)キャンセルの意思表示を受け、了承しました。キャンセル時に発生する負担金を今回はホテル側の責任と捉え、宿泊日前日のキャンセル料は無償とさせていただきました、支配人の指示です。
するとこのような状況にありながら宿泊を熱望されるお客様が一組受話器のスピーカーを万能、高性能と誤った解釈をされ、大層切羽詰る緊迫した心情を無意識ならが音声に込めたのでした。午前中に追われた応対と対照的に、幾らでも支払う用意は整う、どうにか融通を利かせ部屋を確保してほしい、贅沢は言わない、シングルであろうとも二人寄り添い眠る覚悟だ、と宿泊を切に願います。
支配人と協議を重ねました、私の一存では決めかねる。
宿泊客にとって好ましく万全の歓迎を以って漸くホテル業は招く権利を付与される、状況はまだまだ不穏で原因究明は未だ宙をさまよう時節であってホテルに取りましても誤解に傾く吹聴を帰宅後お客様が行ってしまっては今後の宿泊利用への影響あ計り知れません。
一度拒否に振りましたが書き止めた応対するお客様の氏名を支配人が目にし、すんなり許可を出したのであります。親戚だったようです、失踪したお子様の。
驚くべきが受け付けた予約客、二名の老夫婦は応対から寸分時を待たずして、ホテル駐車場に滑り込んだのでした。
あらかじめ地上ゲート前に待機をしていたらしいのです。打ち切りを私たちが伝えます。
警察から聞かされた内容と漏れ聞こえた非公式な捜査員の心情をお伝えした、「裸、かもしれない」。
『ひかりいろり』、囲炉裏端にへたり込む二つの背中はましく亀のようで、硬くて丸くそれはそれは小刻みに震えていました。
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