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鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 9-1

業務日誌 

八月七日 担当<山城> ㊞


「黙って聞いてて思うんだけれど、兄さんが海里を私に任せて仕事に戻った人任せにした子守の追求をここら辺でしてあげようかなって。その人を疑うのはナンセンス。部屋を断定ししかも一刻を争う剣幕だった、その人が犯人なら部屋を開けさせたのは何で?ほかの誰も気がつかなかったのよ、二階には私とその人二人だけが泊まる。私はいい気分で眠ってたもの、月を愛でる乙女チックな習慣もなし。それに一晩足らずで子供は死んでたまるか、天窓にうずくまれば安心して寒さに朝方に多少眠れたでしょうよ」満足げ、室田幸江はタバコをふかす。これは日井田美弥都女史の視点を借りた描写である、私山城はカウンターの末席に座る。中央に室田幸江様、反対側の端が室田孝之様。
「二年前海里と同年代の少女が消息を断ったんだ、このホテルの例の部屋で!連想するのは当たり前だろう、それに山城さんでしたね、あなたの伝え方にも僕は一言苦言を呈しますよ。なぜ、命に別状がないと真っ先に説明しなかったのですか!?神経を疑いますよ」
 ホテルの規定沿った情報開示である。一に不手際の謝罪、二に簡潔にまとめる状況説明、そして三に漸く具体的内容が組まれる。
「というかおかしいでしょう、海里の命に別状がないと知れたらこの人の店を貸しきって、そうか二人で如何わしいことでもたくらむのか」
「顔を忘れていました。正確には覚えてはいるけれども普段使いの用は済んだ。必要に迫られて取り出す位置にしまってあった」、と美弥都はきっぱり答えた。
「未練は……ない。吹っ切れてる、再婚したんだよ俺は。ああ、勝手に思い込んだ。いいさ、認めよう。君が海里に手をかける姿が眼に浮かんだ、離れなかった、焼きついた。そんでいても立ってもいられなくなった。去り際に見た君の顔が鬼のような形相に変わっていったのさ」室田孝之は降参、手を挙げる。「親馬鹿さ、しかも前妻の犯行を疑って止まなかったよ。ただし、いの一番に見つけた頼もしい人っていう印象を元母親の他に植え付けたことは断固としてだ、認めてやるものか!接触禁止を君は破っているんだぞ」夫婦関係しかも日井田女史は法律上、娘との接触を禁じられるらしい。もう一名、存在をすっかり忘れていた探偵の十和田氏が発言に転じた。彼は入り口と対角に座る。彼だけがテーブル席である。