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鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 11-1

お題「カメラ」

 圧縮。見事私たちの眼前しかも等距離にぶら下がる日井田女史の解説は淀みなく、確実にこちらを見透かす手玉に取る厭らしさは皆無、話の腰を折りそうで折れなかった指摘の頻度とにじり寄る圧迫は下降ラインを描きます。とはいえ、核心には中々至りませんでした。家入は兎洞と席を一つ離して座る、日井田女史に視線が集まる。「肯定、否定、拒否でも構いません、家入さんは兎洞さんの視覚欠損を以前から知りえていましたね?不要な弁解は後ほど伺います、肯首でお答えを。はい、閉じきらず開いたドアから室内に横たわる死体と遠矢さんをフロントに引き返す兎洞さんは目の当たりにした。ところが特異な兎洞さんの体質を念頭に捉えこの場面を見返すと、あってはならない彼女の証言に出くわす。これは取り寄せた兎洞さんのカルテ、刑事さんの許可はいただいております。左を捉える視力は未検出、バーの表示。つまり、彼女は左側が見えていません。生活に支障はないでしょう、車の運転も合法的に許可されてます。視力零点七と百五十度の視野角が免許の発行要件ですので。部屋のドアを思い返す、ドアは右から左へスライドする。そう、三分の一ほどが電子錠をかざすパネルのある右側から開いていた。室内にいた遠矢さんは死体が横たわる中央の囲炉裏、その右手に立ち尽くします。ドアと特異な性質の二重の限られた視界、覗き込む立位置を変えなくては二人をいっぺんに視認することは叶いません。描写と矛盾しますね。比較と対比が視野の欠損部分を補う、兎洞さんは外界をありのままに感知してはいない。しかも、明らかな死をまるで気を失い倒れた者を見るかのように救助を急かした。