コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 3-1

 忙しない上下動が玉に瑕、悪路では褒められた性能なのだろう、環境によるのか。適材適所、万能でごまかしが通じる論理。目には見えなくなったものの自宅に帰り鏡を見れば顔の汚れは日常生活のそれを上回っているに違いない、海沿いの港湾を遠ざかり車は走る、店に顔を出して帰る予定を告げていた。自宅を知られずにやり過ごすには上等な手段である、人手不足の店を手伝うつもりなのだから帰宅は営業時間を越えた深夜になる。
 鈴木が放つ疑問に車内では答えた。レールを外れた『ひかりいろり』のドアを持ち上げるには運搬用の吸盤を二つ使用し、概算で石の重さに加え内部の板は四十キロ弱、<吸着力四・八N×ニ>により、可能であると返した。不振がるの鈴木のほか、業務日誌に書かれた山城の描写及び感想も、現実味を帯びる物理的な説明にいまいち納得しかねる。鈴木と十和田に協力を仰いだ甲斐があったといえるかどうか、十和田はうすうす感づいていたようだが、あえて無知な態度を貫いてくれたのだろう。車内に戻る静けさ、美弥都はページを捲る。
「彫刻像の運搬に使う吸盤を借用・流用した、駐車場から作業場南西の通路へ運搬、石材の配送業者三名が台車から石を台座へ運び立てかけた、と立会人の山城さんの記録にはあります。ほぼ宿泊客が夕食に出かける時刻は見当がつく、その時間に狙いを定めた。どっさり焙煎された豆がS市から届いた、期日は二年前の事件当日、正午前と書かれています。前任者、喫茶店のマスターは現在の私同様豆の個性を見極めるテイスティングにかかりっきりであった、ええ利尿作用で頻繁にエレベーター近くのトイレを行き来したとは残念ながら思えません。カッピング、という手法は口に含み口腔内全体に行き渡らせ飲まずに吐き出す、私は飲みますがね。間柄ですか?不要でしょうが、召集した手前あなた方が諦める解散のきっかけは私に課せられたと受け取ります。よろしいですか、山城さん?聞かなければ、という後悔は先に立たずですし山城さんもあちらの探偵さんを責め立てないように、個人的な興味が勝ったのですから」