コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

エピローグ 1-1

 八月下旬 


「A市界隈の案件はもうよろしいんですか?あっと、その前に、車、ありがとうございました」
「有意な行動を選択したまで、こう言っては何ですが鈴木さんのためというよりかは、あの人に会いたいから、かな」
「聞こえますよ、この距離でも筒抜けです」
「それは好都合だぁ。間接的にでも受け止めてくれている、僕にはこの上ない」
「支配人の山城さんの捜査では、係員三人との血縁関係は認められませんでした。そう容易く縁を結びつけるのは僕らの悪い癖、夫婦も元は他人……、うわっと、いや、日井田さんのことを言ったのではなくてですよ」
「どうぞ。……指摘も噂もあなた方の自由です。私に届かなければ、それはあなた方が回収の役目を担う。ごゆっくり」
「はぁ、また嫌われちゃいました」
「不透明な振込みが毎月、三年前迄特定の口座に振り込まれていた。口外をしない、当人の氏名を明かさないことを条件に情報を聞き出せました。多くは語れません、察してください」
「つまりそれは繋がりがあったという、こと……。証言の訂正はしかし、難しいでしょうね。再捜索を『ひかりやかた』は断固許しませんし」
「異郷。人はいつの時代も異質を好みますね。豊かさも慣れが退屈を生む」煙が漂う。「営業停止分の損失を警察が支払うとは思いがたい。それなり、強制力のある有無を言わせない確固たる証拠を突きつけてようやくですね、交渉の場に立つ。そこまでの労力を刑事さんたちは費やすことは現状、いったん捜査を離れた解散のにおいては、再召集は夢のまた夢」
「以前警察にお勤めでしたか?」
「うーん、とってもプライベートな質問ですね」
「いや咄嗟に考えを言ったまでで、すいません、考えるそばから言葉が出ちゃって。あのう、その台詞、日井田さんにもよく言われます?」
「私は何度も発した覚えはありません、正確には三度です」
「はいっ、謹んで訂正します」首をかしげた。「あれれ、どこで聞いたんだろうか。女性だったんだけどなぁ、ふーん……」
 漂った煙を二人は見入る。
「彫刻家は見つかりませんね。アトリエは調べたのですか?」
「出てきたのは結局、数本の四角柱、札幌軟石の塊と道具類です。所有車も以前として行方知れず、廃車が妥当でしょうね」
「石はその後どうなりました?」
「どうって、そりゃ、あっと、どうなんだろう。作品が数点、完成品が二点と製作途中のは三点ですかね、アトリエの所有者は解体費用の足しになるなら売り払う、と言ってました。更地のほうが買い手がつくんですって」