コンテナガレージ

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店長はアイス 恐怖の源3-3

お題「ひとりの時間の過ごし方」

 外観は一軒家のログハウス、二階はないのだろう、あっても屋根裏部屋程度のスペースが限界かも。エスニック風の厨房とカウンター席はライトを囲うように竹で組まれた四角推の側面を藁が覆っている。丈の違う観葉植物が一人では動かせないほどの鉢に、店のいたるところに置いてある。いらっしゃいませの声掛けはあったが、一向に案内はしてくれない。勝手に席についていいのだと理解し、紀藤香澄は二席の片方に腰を下ろした。バンダナを巻いた女性が水を提供、メニューを手渡す。店員が去らないうちに、注文する。オーダーはあらかじめ決めていたのだ。お客は私一人。持参した本を読む。さかさまに印字されたこの本、古本屋で見つけたのだ。哲学書のコーナーで手に取った。普段、本はほとんど読まない。眠くなって表現が回りくどいと読む気がうせてしまい、二十ページぐらいでいつも本棚にしまうのが私のパターンであった。けれど、この本はスイスイ読めてしまう。昔の文章で外国の言葉遣いでも読めてしまう嬉しさも影響したのかも。でも、それでも、もうあと少しで物語りは結末を迎える。短いセンテンスで綴られる文章はどこから読んでも理解できるように書かれている。だから、小説のように紆余曲折、浮き沈み、伏線の回収で手に汗握るラストは待ち受けていはいないけど、読み終えてしまう寂しさは同じぐらいに、紀藤香澄は感じている。
 カップルが二組、店に入ってきた。彼女は横目で視界の端に若い男女を見やった。突然、不安感が襲う。胸の辺りがもやもやと渦を巻いて行き場を失った気体が内側で暴れ出す。知っているこいつの名前は。ただの焦り、常識、同年代との比較、人としてのあり方。笑い声が聞こえた。楽しそう。それと比べて、私は……。比べる必要なんてない。比べているのは何事にも集中していないだけのこと。抜け殻の自分をもっと細かく正確に実に丹念に見つめるべきだ。そうやって比較をするのは後の後ずっと後。本来なら一生比べるべきではないとさえ思うのを忘れたの?紀藤香澄は自分に言い聞かせる。こうやって私が平静を保つ。冷たい水が飲み口の広い、凹凸の透明なグラスで氷が解けて踊った。