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店長はアイス 恐怖の源4-1

 熊田たちO署の刑事は安らかに眠る顔を瞳に焼き着付けた。現場保存された一帯に群がる野次馬を押しのけて鑑識の到着後に熊田たちが呼ばれたらしく、緊急の事件性は低いと熊田は結論付けた。彼らが呼び出される場合、迅速さはいつもあってないようなものだった。現場は港町ならではの光景を思い浮かべると想像がしやすいだろう。停泊するヨットと防波堤、緑色の海。ベンチに女性が仰向けで息絶えていた。先着隊の刑事二名が嫌そうに熊田にこれまでの情報を伝える。彼らは熊田たち爪弾きの人間と関わりを拒んでいる。仲良く話す姿を仲間に見られでもしたら、自分の地位が危ないと考えている連中ならではの生態である。二人の刑事は熊田から離れて足早に野次馬に消える。海風に揺られ彼らのネクタイがうねうねと靡いていた。
 相田を署に残し緊急用の連絡係に据えた。相田の寝不足と車の定員オーバーを鑑みて熊田が判断を下した。電話口でも緊急性を感じてはいないので、種田と二人でも対処は可能であったが、鈴木が同行志願するので仕方なく熊田は三人での行動に切り替えて、捜査にあたった。
 被害者は女性、名前は紀藤香澄、三十五歳、右側頭部に損傷。その他、致命傷となる傷は見当たらない。熊田は種田と鈴木に被害者の身元を口頭で教える。種田の抜群の記憶力に頼り、熊田はメモを取らない。彼もこの程度の記憶力ならばまだ衰えてはいないが、事件のあらすじを読み解くにはときに不必要な要素でもある。だから、書きとめる必要のあるときは種田に覚えておいてもらう。
「人気のない通りですから、深夜に殴られて放置された。そこに発見者が通りかかったのかぁ」鈴木は運ばれていく遺体を目で追う。「第一発見者はどこですかね、もう署につれていっちゃいましたか?」
「熊田さん?」鈴木の独り言を種田が質問にかえる。
「誰もいなかったらしい」ベンチを見つめる熊田が言う。
「通報者がですか?」
「番号の記録は?」種田が鈴木に続いてきいた。
「ああ、名前も住所も調べた。しかし、本人は地上にはいない」
「もしかして、死んだとかですか」鈴木は大きく開いた口を閉じるとごくりとつばを飲み込んだ。
「いいや、海の上だ」