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店長はアイス 恐怖の源4-7

……」反論できずに鈴木は黙り込んだ。彼の素直な性格は言葉と行動がほぼ同一の意味を持つだろう。それに比べ、種田は表情の変化が乏しい。行動も緩慢で無意識に制限を課しているようにも見える、と熊田はハンドルを握りながら感じていた。
 会話は中断し、それ以降は事件についての詮索は打ち切りとなった。会話の主導権を種田に握られて以来鈴木は考え込んで、時折額に皺を寄せ、上半身を左右に揺らし、または三十度ほど傾けた状態で唸るのだった。熊田は煙草を吸いたかったが、隣の種田に遠慮して口元の擬似で我慢を決め込んだ。煙草に左右される生活は割に合わないから、禁煙という言葉も何度が運転中に頭をかすめた。しかし、即座に一時的な気まぐれとこれまでの熊田がただの煙に誘うのであった。
 国道をS市方面に走行、頻繁に通う喫茶店を通過、海沿いを走りぐるりとS市の北辺を舐めるように進む。三車線の道路は交通量が多く、トラックやダンプカーなどの大型車両が目に付く。北へ進路をとり、現場を出て四十分ほどの時間で被害宅に到着した。
 地下鉄の終着駅の周辺に被害者が借りるマンションが建ち、周囲はビルというよりかはマンションやアパート、背の高い建造物がひしめいている。移動中に空が曇りを多用した配色で熊田たちが車を降りた時にはもうグレーに染まっていた。ワンルームの一室が被害者、紀藤香澄の住まいである。管理人に鍵を開けてもらい熊田たちは室内に入った。しかし、約十分で部屋を後にした。
「なんですかね、彼女は結婚する予定だったのでしょうか?」鈴木が難しい顔で言う。鈴木の隣で熊田は車の外、運転席のドアに寄りかかり煙草を吸っている。本日一本目の喫煙だった。
「これからなのか、それまでのものか」
「ああそうか、でもウェディングドレスをクローゼットに掛けておきますかね?女性だったら潔く過去の遺物は捨ててしまうような気もするんですけど?」鈴木は種田に聞こえていないことを願ったようだ、車内を気にしている。熊田は黙って部下の行動を感じ取る。
「勤め先に相田を行かせよう。こっちはドレスの販元を調べる」熊田はドアを開ける。「種田、相田に被害者の勤務先を調べるように伝えてくれ」
「はい」
「高そうなドレスでしたね」鈴木がどんより曇った空を見上げて言った。
「良し悪しがわかるのか?」
「なんとなくです。結婚式で姉が着ていたドレスと似たようなデザインだったので。確証はありません」
「雨か」ポツリと小雨が降り出した。落ちてくる雨は大降りにはほど遠いがサイドウィンドウと煙草の紙が濡れだして、やっと降り出しを認める、二人。まだ、傘を差さなくても平気な雨量であった。
 ドアが閉まる音が合図だったかのようにフロントガラスを埋め尽くす水滴が落ちてきた。
 記憶したクローゼットのドレスが熊田の想像の中で揺れた。ふうわりと風をまとって祝福を待つ道を歩く姿、紀藤香澄、ドレスの裾が歩行に合わせてランダムに跳ねる。しかし、彼女の顔は真っ黒で表情が読み取れなかった。参列者も皆顔が黒く塗りつぶされていた。ドレスだけが意識を持って、作られた意味を問いただしているように感じた。