コンテナガレージ

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店長はアイス 恐怖の源6-3

「知らない人と話すのが不得意なタイプの方でしたか?」
「少し内気な性格ではありましたけど、お客様とも普通に会話していましたし、仕事上でのやり取りでも無難にこなしていたと思います」
「紀藤さんは本をよく読まれる方でしたか?」
「本ですか?」股代は鸚鵡返しも癖らしい。繰り返すあいだ、質問に答える時間を稼いでいるのだろう。「休憩中に読んでいたような気もしますけど……、ちょっと思い出せないみたいです」照れて頭をかく股代である。
「こちらに、紀藤さんの私物はありますか、あれば見せて欲しいのですが」
 股代は相田の背後を指し示す。「後ろのロッカーがそうです。彼女は、……右から二番目ですね」股代は立ち上がる。「ちょっと待ってください、スペアキーを取って来ます」
 小走りで戻る股代がキーの束、蛍光のキーホルダーを掴んでロッカーの鍵を開けた。二人で中を確認する。
 仕事で履くスニーカー一足とエプロンが一着、薄手の上着とひざ掛け用のブランケットがそれぞれ一枚。証拠品として手袋をはめて相田は上着とエプロンのポケットを調べた。しかし、中は空であった。これらの品を入れる袋を股代に要求した。店長は手際よく、ラックの最下段からパン屋で出会う薄くても丈夫な紙袋を、中を開いて渡す。靴を底に入れ、上着をたたんで、ブランケット、エプロンとたたみいれる。袋が小さく、口は多少開いていたが気にしない。
「お手数を掛けました」
「いえ、いえ」
「最後に一つ、お伺いしてもよろしいですか?」テーブルで話していたよりも近い距離で相田は尋ねる。
「はい」
「過去に紀藤さんとお付き合いをされていました?」
「私がですか、ええっつとその、ええ、まあ。はい」
「そうですか、ありがとうございます。また、お話を伺う際によろしくお願いします、私はこれで」
「刑事さん?」股代が相田の手を取った。「他の社員には、内緒にしていただくことは可能でしょうか?」
「皆さんには公表されいないと?」
「ええ、私は……結婚しています」
「なるほど」相田は無表情を維持する。
「ですからその、なんとか……」訴える眼差しの股代。
「ええ、正直に言ってくださって助かりましたよ、調べる手間が省けました」
「どうか、その妻だけには、知られたくはなくてですね。無理な、お願いだとは承知しています」
「約束しますよ」
「ありがとうございます」股代は相田の丸い手を両手で握りしめた。
 なんともやりきれない思いを抱き、相田は車に乗り込んだ。ため息。まともな人間ほど裏の顔が存在する、そう先輩には教えられた。まさに刑事になりたてのころに戻った気分だった。知られたくはない顔は誰もが持っていると思えば多少気が楽にもなるのだが、あまりにも自分とかけ離れていると感情移入を飛び越えて、ため息すら出ないのはやりきれなさで満たされるからだろうか……。取り合うのは得策ではない、そう言い聞かせて相田は両手で顔を叩き、ハンドルを握って署を目指した。