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店長はアイス  過剰反応3-4

「股代です!」
「思い込みが多分に含んだ結論には許可を出せない。私を説得するなら、彼女、紀藤香澄がなぜ自殺ではなく他殺なのか、それと彼女を股代修斗が殺害したという明確な解説をここで今私に施してくれ」
「鈴木がいます」
「こいつが、いると言えないのか?」きょとんと目を丸くした鈴木へ熊田の煙草の赤い先が向く。
「……いえなくはありませんが、できれば、熊田さんと二人で」
「そこにどうやら理由がありそうだな。場所を移そう。鈴木は吸っていていい」
「僕は、のけ者ですか?」
「すまん、鈴木」相田がめずらしく謝る。いつも鈴木には強気で弱みを見せない彼の発言と表情は丸々とした顔がかすかに生気が失せたようにみえた。
 熊田と相田は無機質な天井にむき出しの配管が覗く会議室に場所を移した。最後列の窓側に熊田は腰を下ろす。相田は腰に当てた手が言い負かされまいとする意気込みをあらわしていた。左肘を長机に付いた熊田がきいた。
「殴り合いの喧嘩を始めるつもりはないと先に言っておこうか」
「そんなつもりは初めからありませんよ」
「では、かたくなに紀藤香澄を擁護する意見に至った読み筋を聞かせてもらおうか」
「簡単ですよ。私の姉が結婚式を挙げる前に相手に逃げられたのです。十歳、離れた姉で、行われる予定だった式は十年前のことですよ。今では普通に暮らしていますけど、実家の姉の部屋にはまだ紀藤香澄の部屋にクローゼットの中身と同じものが仕舞ってあります。誰も触れません、姉には新しい相手を探せとは誰もいえません。たとえ、それが幸せだと知っていても一度作られた壁は容易くは壊れてくれない。壊そうとも本人は思ってはいないようですがね。だから、つまり、結婚を餌に関係を築く奴を私は許すわけには絶対にいかないのですよ。熊田さんには判っていただきたい。彼が、股代が紀藤香澄に精神不安定を抱かせたことは確実です。ですから、股代を調べさせて下さい!」縦にも横にも大きい体が器用に折りたたまれる。熊田は鼻から息を吐いた。ため息や感情を表す息の使い方とは別の呼吸法のような、精神の安定を求めた息遣いであった。
「一方的な見方を信じられるか?何があっても、お前の予測が覆されたとしても、疑いを見出して信念を貫けるか?」
「誓います。私のためではないのです、妥協や諦めは通用しません」