コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

店長はアイス  過剰反応4-1

 本来なら今日は休みだったのに、朝早く電話で起こされたのは憂鬱以外の何者でもなかった。胸の内を写したかのうような空の曇り。風が冷たいのは救いかもしれない。私は同僚の代わりに休日を返上。休みを私にお願いした彼女は確か、昨日休んでいたはずだ。となると私は来週まで、つまりトータルで約二週間働きづめ。文句を言っているのではない、大変だねとか疲れていないとか一言でも声をかけてくれさえすれば、二週間はあっという間に過ぎる。電話では、申し訳なさそうに振舞う彼女の口調だったけど、うん、私にはわかる。わかりすぎるほどわかる。この人なら許してくれる、文句も言わない、後腐れがないと決め打ちで体調不良を訴えたんだ。私以外の同僚とは仲がいいんだろう、だか余計に頼みにくい。距離を置いた私になら言えてしまう、仕事とかこつけた個人的なお願い。やっぱり、悪いクジに私は気に入られているらしい。

 駐車場に車を入れた。店舗脇の小道をそろそろと歩いて、表に回る。通常の出勤時間を十分オーバー。罪悪感はない、むしろ褒めて欲しいぐらいだ。

「紀藤さん、おはよう。悪かったね、休みに呼び出してしまって。林道さん、夏風邪なんだって」店長の股代修斗が謝らなくてもと私は思う。林道さんは他の同僚に休みにまだ冷たい海風の海水浴場に行っていたと自慢げに、ことさら自分は夏を満喫してきました、どう、うらやましいでしょうと話していた。体調不良だって、薄着で一日中はしゃいでいたんだ。だけれど節度を持った行動を彼女にも他の同僚にも私は要求をしない。言えば私の居場所はこの店からなくなってしまう。何も言わないこと、黙っていること、おとなしいこと、従順であること、店長との親密な関係は過去のことと振舞うべきなのだ。誰かにきつく口を閉ざされたのではない、私が自らの意思でやっているだけ。けど、たまには、褒めなくてもいいから、私以外の誰かに私を言い当ててもらいたい。