コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応6-2

「ブログの内容は説明文。彼女の感想は書かれていないんじゃないのか。鈴木?」

「言われてみれば、そうですね。味についても、はい、おいしいとかは一言も書かれていません。ページのレイアウトも真っ白で初期設定のままみたいですし」対象物や体験の見解、感想は秘める。

「お前も書いているんだな」

「書いてなくても、わかりますよそのぐらい。暇つぶしにはもってこいですからね」

 熊田、種田、鈴木の三名は雑談を交えつつ、被害者紀藤香澄が残した記録を頼りに車を走らせ、サイトに記載された店を訪れた。軋むデッキを登る。開店前、店内に足を踏み入れる前、駐車場に降り立った時には鼻を刺激するスパイスの香りはあたり一面に漂っていた。近隣に民家が傾斜にそって立ち並ぶ。たまにおいしさを求めるお客には新鮮な香りかもしれないが、住民にとっては爆発しそうな感情を抱えた時、その香りは攻撃対象に変貌しかねないと、熊田は鈴木、種田の背中を眺めて思った。

「お忙しいところをすいません、どなたかお店の方、いらっしゃいますか?」低姿勢の口調で鈴木ががらんとした店内に呼びかける。店内はより一層スパイスの香りが感じられる。

「はーい」声だけが、聞こえる。女性の声だ、高い声。「はい、お店はまだ開店前で、十一時からなんですよ」頭に黄色のバンダナを巻いた二十代ぐらいの女性が出迎えた。自然由来の染料で染めた風合いのTシャツに機能性の低い短い丈の、格好を意識したエプロンが腰に巻かれている。大きな瞳が数回瞬いて、申し訳なさそうというよりも、笑顔でごまかす対応であった。

「お客ではありません。ちょっと、お聞きしたいことがありまして。私たちこういうものです」

「はい……」女性の顔が一気に曇り、種田、それに熊田の顔も順番に表情と風体をたしかめる。

「この女性に見覚えはありませんか?」鈴木とは取り出した紀藤香澄の写真を彼女に見せる。しげしげと彼女は写真を見つめた。首を傾け、頬にそっと手をかざす仕草。

「思い出せません。私の知り合いにはいないと思います」

「いえ、あなたのお知り合いではなくって、お店のお客さんでこの人を見ませんでしたか?」

「アはっ、ごめんなさい。勘違いだ。そうですよね、うんと、お客さんですか。あの、私だけじゃなくて他の人にも聞いていいですか?」

「もちろん、お願いします」女性はまた消えた。店内は、静かで微かに風が舞っている。死角で扇風機が動いているのだろう。観葉植物の厚い葉が定期的にさわさわと揺れる。扇風機が首を振る何よりの証拠だ。南国、アジアの雰囲気のインテリア。革張りのソファーや現代的な椅子は見当たらない。まあ、木や竹だからといって、懐かしさを覚える熊田ではない。過去に幼少期にそうった家具に囲まれて育ったためしはまったくないのだ。郷愁は、植えつけられた記憶と熊田は解釈する。