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店長はアイス  過剰反応6-7

「鈴木が言った内容がほぼ正解だ」
 熊田が次の言葉を吐こうとした瞬間、種田が通常よりも表情に必死さを加えてドアを開けた。「紀藤香澄の指紋が二冊両方の文庫本から検出され、さらに両者に共通した指紋がもう一つ検出されました」
「誰のだ?」熊田は低いトーンで詳細を尋ねた。窓を見ていた体が出入り口をむく。
「特定はできません。犯罪者ではないことは間違いありません」
「もう前歴者を真っ先に調べるシステムに限界を感じますよ」鈴木が言う。
「証拠の文庫本を鑑識に渡したんだな」熊田が言った。
「はい、所持していたのは私ですから。煙いのでドアを閉めます」
「まて、なぜ同じ装用の本が現場と紀藤香澄の足跡で見つかったと思う?」
「それは質問ですか、それとも単なる思いつきで聞いていますか?」種田は微笑を浮かべる。頬が引きあがったように見えた。彼女が笑うと喜というよりも鬼が結びつく。
「質問だ」
「そもそも彼女が現場で本を落とした、あるいは残したとの考えはあまりにも短絡的です。それは紀藤香澄が本を所持してならかの意図や外部的な作用で本をベンチの下の移動せざるを得なかった、または落としたのでしょう。しかし、本がその場に落ちていたという事実は大島八郎の証言によってだけのみ証明を許されています。山田副、通報者の彼が持っていた本は実は現場には落ちてはおらず、そこに彼が、つまりは大嶋八郎があたかも現場にいたかのように私たちは錯覚を余儀なくされた、そう思い込まされたとも考えられます。山田副が置いたとされる名刺は、亡くなる前に被害者が置いたのかもしれません。彼、大嶋修斗が第一発見者であるという見解は偽り、現時点ではそれが最有力です。すいません、質問の内容からは大幅に逸れてしまいました。では、私は戻ります」
 たしかに種田の言い分は納得する部分がないこともない。しかし、熊田は思う。そうしてまで、つまり大嶋八郎が大芝居を打ち、山田副に協力を依頼してまで発見者を装った理由が掴めない。思いつかないのだ。