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店長はアイス  過剰反応6-9

「ちょっと、相田さん、急にリアリストですか」
「お前といると現実を見つめなきゃって思うわけだ」
「でもですよ、死んだらお墓に花やお供え物をするわけですから、死んで間もないならもしかすると間に合うかもしれないって思うのは判ります。けど、もう亡くなって何年も経った人への供物は届かないと思うんです」
「死者のためではないんだ」熊田は言う。二人の会話がぴたりと波を打ったように止まる。「お経も供物も墓参りも死者と対面する儀式なのさ。墓まで足を運び、道すがら死者を思う、思い出す。そしてそこから、自分を見出す。死者はもう生きられない、生きていない、つまり自由に行く先を決められない。対して、己はまだ選択を許されている。何もできない死者を通して自己を見つめ直し、生き方を正す。死者を想うというは、表向きの理だ」
「結局は自分ってことですか、悲しいですね、それって」鈴木が息を吐きながら小声で呟いた。
「誰も気が付いていない。いいや、知ろうともしないのさ。死者のための墓参りは、先祖の幽霊に祟られる、あるいは風習や習慣、親の教育によるところが大きい。それを行わない自分への警告として、決められた期日、期間に、遠く離れた場所への訪問で不安が解消されるのだから、行かない手はない。自分で作り出した幻想なのにな。どこにいても、死者は自分の中に生きている。祈りは振り返る道具なのさ」
「相田さんも反論してください、これじゃあ熊田さんの意見が採用されちゃいますよ」鈴木は口を尖らせて言う。煙草の灰を銀色に光る細長い棒の隙間に落す。
「あくまでも熊田さんの意見だろう、沈黙が賛成と同じ意味を持つって誰が決めたんだ」
「じゃあ何かいってくださいよ」
「特になし」
「ほぉら、思っていましたからね」鈴木は得意げに斜め上に顔を伸ばす。
「そろそろ戻らないと、怒られそうだ」熊田は時計を見る。
「ですね、行きますか。相田さん、僕は予想していましたからね」
「うるさい!しつこいぞ、もうお前にはおごらないからな」
「そんなあ、嘘ですよ、冗談って言葉知ってます?」
「謙虚って言葉を知ってるか?」
 その日はこれといって事件の新情報はもたらされなかった。刑事たちは新情報を探しに方々へ離散し捜査を試みた結果が収穫ない、という事態であった。