コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応9-1

 平日の午前、飲食店は開店準備に忙しいらしい。表から声をかけても出迎えがない。仕方なく、熊田は不審者ではない、これからお店に入りますよ、とそういうニュアンスで店中に侵入した。種田もぴたりとそれも無言、無表情で熊田に続く。廃墟や遊園地のお化け屋敷を手探りで進む臨場感が蘇る。偽者で作り物とあらかじめ言い渡されても、想像は暗闇と古ぼけた建物にいとも簡単に恐怖を、個人の具現化を披露する。恐怖を感じそうになったら、自分はこういった種類を怖いと思っているのだと、客観的に内面を理解すれば、怖さの大半はさっと逃げ帰ってしまう。そもそも自分が作り出した幻想が膨らんだそれらが恐怖。しかし、理解はしていてもいざ恐怖を目の当たりにすると腰を抜かす人も中にはいるだろう。つまりは、日ごろから恐怖について入念に、これは嘘でまやかしだからおどろくことはないのだと言い聞かせることが何よりだ。だが、ここはたんなる日が入らない飲食店の玄関口である。熊田の考えすぎ。

「すいません、どなたか――?」視界は正面のレジと学校を思い出させる匂いの木製の下駄箱に、靴を履きかえるスペースの色の濃いすのこ、だらりと天井から吊るされた赤い笠の電球。コンクリートはひび割れている、店内の雰囲気はだいたいこの玄関でつかめそうだ。

 白い粉を纏ったエプロン、頭には赤い布を巻いた小柄な女性が顔を出した。

「申し訳ありません、開店は十一時からです」とりきれなかった白い粉が手首に付着、頬にもうっすらと粉が飛んでいる。

「お客ではなくて、警察です。少しお時間をよろしいですか?」警察手帳には相手のやましさを浮き彫りにしてしまう力が備わっていて、彼女は首を傾げるだけで警戒心を強めたり、また面白おかしく振舞ったり、あるいは判りやすく動揺を見せ、あわあわ慌てたりといった態度は見せなかった。