コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

人気のないところからの視線

お題「これって私だけ?」

 隔週に一度、ある道を通る。仕事から離れて、散歩に出かけるのだ。国道沿いの道で、交通量は多い。人とすれ違うことも少なく、左手には山が迫り、国道を挟んだ右手には、海が広がっている。

 

 この道を通るときに、何度か人の視線と気配を感じたことがある。一度目は冬の時期。誰かの足音が背後から聞こえきた。しかし、振り返っても人はない。数分前に、私を追い抜いて行った市民ランナーの足音が、耳に残っていたのかもと、思っていたのだ。ただ、人の視線は説明がつかない。あれは、山の方からだった。気のせいということもある、そう自分を丸め込んでいた。

 

 視線と足音のことをすっかり忘れていた翌々週の散歩。このときは、視線だけを感じた。背後を振り返っても、車が走っていくばかり。人は誰も歩いていない。反対側の歩道にも、人の姿はなかった。前と違った点は、視線のほかに、人の声が含まれていた。誰かに呼ばれたような気がしたのだ。山びこの類だろうかと、わずかに思った程度で、特段気に留めることもなかった。もちろん、返事はしていない。そのまま散歩を続けて、いつもは歩かない道を選び、家路についていた。

 

 次の散歩は、一カ月ほど間を空けていた。週末の散歩を買い物に充てたことで、いつものルートを歩くことはなかったのだ。そのため、変な出来事のこともすっかり忘れていた。

 

今度は、視線だけ。山の方からだった。

 

 そして、その次の散歩で、ある確証を得た。私はいつも、コンパクトなバッグを斜め掛けにして、歩いている。バッグがふいに、後ろへと引っ張られたのだ。よろけるほどではなく、軽く引く程度の力。気付かなければ、それでもいい、そんな動機が読み取れた。

 

 このとき、ふとある考えに行き着いたことで、鳥肌が立ってしまった。それからは考えないように努めて、急いで家に帰った。

 

 鳥肌の原因は、バッグを引っ張られた場所にある。思えば散歩を始めてから、おかしな出来事に遭遇した場所は、いつも同じ場所だったのだ。歩道脇の家が少なくなり、一直線の道が続くあたり。遠くに見える歩道橋を目指して、考え事に耽るところで、視線・呼びかけ・接近・接触が起きていたのだ。

 

 それからはもう、歩いていない。散歩のルートを変えた。道の反対側では、おかしなことは起きていなかったため、山側の方に何かがいるように思える。私は、気のせいと思い込んで、この出来事は忘れるようにした。