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店長はアイス  死体は痛い?2-1

 鑑識の発表により大嶋八郎の死因は頭部の外傷によるものと判明した。使用された凶器は依然として発見には至らず、形状の特定もはっきりとした回答が得られていない状態である。さらに、死体の上着には文庫本がしまわれていた。逆さま文字の「幸福論」である。また、いつもならばとっくに指揮権を剥奪する上層部からも今回は音沙汰なく、なんとも不穏な気配を熊田は感じていた。死体を晒す意味とは一体なんなのか?疑問を昨日から問い続けているが、破綻のない論理はいくら解答を提出しても及第点は遠く及ばなかった。

 朝の気温こそ高く、寝苦しさで起されはしたが、現時刻午前十一時において、通気のために開けた窓はすべて閉めた。屋外で活動するならまだしも、屋内や日陰の下では肌寒さを感じたのだ。熊田は大島八郎を発見した小学生の担任教師の事を鈴木から聞いていた。

 昨夜、聞き込みから戻った署内でのやり取り。

「大嶋八郎さんですか、被害者の知り合いが通りかかったのは偶然ですかね。あの美人教師、怪しさでいっぱいでしたよ」斜向かい、種田がやや前傾した顔で鈴木を睨む。「……美人っていうのは冗談で、彼女、死体の顔を見て、知っている顔だと判断したのは、素直には納得できないですよ」鈴木は首を傾げた。

「着ている服とか当時と同じ服装だったら見たことがあると思わないか」相田が鈴木の隣でいう。

「死体ですよ。チラッと見るだけにしておきませんかね」

「そのチラッとでピンときたんだろう」

「熊田さんの意見は?」

「ふーん」

「無視しないで下さいよぉ」鈴木はがくんと頭を垂れる。「この近距離だと立ち直れません」

「大嶋八郎は殴られたと判断すべきか、あるいは高所から落ちて傷を負ったのか……」紀藤香澄も大嶋八郎も落下による損傷の可能性は低い、と鑑識は調査結果を述べていた。もちろん疑うつもりはないが、それがはたして、高所から落ちた際に負った損傷なのか。どうにも引っかかる熊田である。

「頭蓋骨のひび割れが局所的な力を加えたと物語っています。地面など面積の広い対象物に体が衝突した場合、ひび割れは死体の体重と速度が加算されます。高所からの落下であれば、重力も加わる。そうなれば頭蓋骨は細かにひび割れて損傷する」