「この店、休憩に入り次第、社員の皆さんに来てもらいましょうか?」鈴木が言った。やっと湿った手から開放されたのだ。
「わかりました。では、そのように伝えておきます。最初の休憩は、お客の入りを見つつですが、一時半から二時の間に入ります」現在の時刻は十二時半である。まだ一時間も先か、鈴木は足早に多少顔色に赤みが戻った股代を送り出して、ため息をついた。相田が、対面の席に移る。おもむろに煙草を吸い始めた。この店は喫煙スペースも隅に追いやられることなく、禁煙席との区別もない。大きく吐いた煙が巻かれる。
「人を束ねる立場を利用してやいませんか?」
「付き合うほうも付き合うほうだ、一概にあの人が悪とは言えない。権力を振りかざして関係を迫ったのなら、話は違ってくるけどな」
「似たようなものですよ。だって、逆らえませんからね、店長には。権限あるんだし、小さな店だったらなおさらです。人事権だって店長の思いのままですよ。ちょちょいと、気分でやめさせられる恐怖をちらつかられるんです」
「ずいぶんと敵対心を持っているじゃないか。モテるからってひがんでいたりしてな」
「はあっ?何で僕が」
「それよりも、紀藤香澄と大嶋八郎はなぜ同じ場所で死んだのか、ああっつもう、何んにも浮かばん」
「もしかして、相田さん、さっきからずっと考えていたんですか?」
「もうろくしているとでも思ったのか」
「はい」
「頭からアイスコーヒーをかけてやろうか?」
「すいませーん、注文良いですか」鈴木はかろうじてロープに逃げた。テーブルを拭いていた店員に声をぶつける。「昼ごはんここで食べちゃいましょうよ、どうせずっとここで待っていなきゃいけないんだし」
「覚えているからな」
「何がです?あの、こちらのオススメはなんですか?」
「卑怯者」
「はい?」注文をとる店員の頭にクエスチョンマークが出現する。
「いいえ、なんでもないです。ああ、そうですか、うん、とじゃあ、そのハムカツセットを、相田さんは?」
「ナポリタン、大盛りで」
「お飲み物はよろしかったですか?」
「大丈夫です」
「ごゆっくりどうぞ」