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店長はアイス  死体は痛い?4-7

「憶測です」種田がきっぱりと言う。前にも聞いたセリフだ。「被害者たちの接触は未だに確認が取れていません。仮に二人が情報を共有する間柄であっても二人同時に死を迎えたがっていたことは、あなたの想像です」

「大嶋八郎が現場を離れ、出社したのは、大切な用事があったからではないでしょうか?」

「どうしてそう思われるのです」熊田が言った。

「彼はすぐにでも死を選択したかった。大切な用事を前にしても死を選べるか試したのではないかと、思ったのです。しかし、彼女が死んでいる。もしかすると彼がそこで死ぬ予定だったのかもしれない。ただ、彼女の死を目の当たりにすると、決心が揺らぎ、用事の重要性が死を上回り、選択を変更した」

「それも憶測です、なんら確証はない。絵空事、戯言、虚言」

「海沿いは微かな音を消し去る。風が強いと尚、好条件。海が近いですね、犯行に関する証拠が海に流されたり、海の底に沈んでいたりしたらどうでしょうか。発見は難しい。船があっても海域は遠浅、停泊中の船に乗れば深い底に証拠を隠してしまえる。しかし、証拠が発見されても犯人の特定に至らないでしょう。現実的に考えて、彼女たちの生活圏の人間がターゲットに挙がり、それ以外の人物は的にも収まっていないということです」

「つまり、犯人は?」

「わかりません」

「ご存知のはずでは?」

「言いなさいよ」種田は立ち上がる美弥都へ命令口調で言い放つ。

「私は尋問されているの?もう市民としての義務は果たしたつもりです。これ以上を望むのであれば、こちらの要求にも応えていただかないと、フェアではありません」バッグを肩に掛けて彼女はカップを手に取る。

「要求ですか?」熊田が問い返した。

「私の勤め先に今後一切現れないと言う約束です」美弥都は胸元に降りた髪を後方に避ける。

「うーん、それは警察としてですか?」

「いいえ、お客としてもですよ」

「……我々だけで考えるしか、なさそうですね」刑事としてもお客としてもあの喫茶店への出入りが制限されるのは痛手だ。熊田はしぶしぶ引き下がる。最も強いカードは相手の手札、強い手札を出し切った後が最大の効果をもたらす。

「それでは、私はこれで」

「逃げるの?」種田が目を細めて美弥都に睨む。

「家に帰るの」

「話はまだ終わっていません」

「私から進んで持ち出したお話だったかしら?拒否権は私も与えられているの、あなたたちの要求と対等にね」

「教えてくださいませんか?」

「そういう言い方で話せるのね?なぜいつも多用しないの、便利よ。相手の度量がすぐにわかってしまうわ」

「……私は私でいたい」種田の勢いはしぼみ、機速を下げた。嘘をつけないものの弱点が露呈する。