コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

店長はアイス  死体は痛い?5-7

「湯のみですか。陶芸が趣味なのかな」鈴木は首をひねる。鑑識へ大嶋八郎の所持品はすべて送られて調べたはずだった。もう一度リストを確かめる必要性があるかも、鈴木はきつく瞬きを数回、頭にメモする。

「後、どれぐらいで着きそうですか?」車は反対車線へとUターンが可能な交差点に向かう途中で、信号に捉まっていた。相田は腕時計を見る。

「十分ですね。信号に引っかからなければ」

「もしかしたら、電車と歩きが早かったかも」

 相田の計算は合っていた。きっちり十分後に、小島京子をブレイクファスト本社の送り届けたのだ。交通量の多い場所に長居はできない、車は流れに合流した。相田は、赤信号で煙草に火をつけ、窓を二センチ下ろす。

「部長の連絡はいつも急ですよね。しかも、事件に関係しているし。熊田さんに伝えてもいいですかね?」鈴木は部長の出現について思いついた事を言ってみた。

「部長に電話してみるんだな。そのとき直接、熊田さんへの報告の有無も聞けばいい」

「そうですよね。忘れるといけませんから、かけますわ」

 鈴木は上着から端末を取り出し部長の番号に掛ける。二回目のコールで音声が変わった。

「あっ、もしもし、鈴木です」

「何かわかったか?」聞き取りにくい洞窟みたいな低い声だ。

「いいえ、まったくなにも」

「商品開発については?」

「ちょうど大嶋八郎が亡くなる当日、えっと、前日の午前に新商品の開発会議で大嶋の提案した試作品の商品化が決定していたそうです。後は、食堂での口論ですが、研究者にはありがちな光景らしいですよ。意見の相違は喧嘩ではないって、言ってました。本心を伝えないことが悪だとも言ってました。それと後は、奥さんと子供の教育方針を話し合っていたとも」

「それから?」

「後は、何でしたっけ?」鈴木は運転中、とは言いがたい煙草をふかす相田にきいた。

「デスクの引き出し、湯のみ、未使用のグラス」

「そうです、そうです。未使用のグラスと湯飲みをデスクに仕舞っていたらしいですね。鑑識にはまだ確認を取っていませんけど、あまり重要な証拠ではなかったのでたぶん、調べたこともあえて僕たちに報告はしなかったんでしょうね」

「そうか、助かったよ。じゃあ……」

「ああっ、待って下さい!」

「なんだ?」

「部長、今回も捜査の目的は秘密ですか?」

「知りたいか?」

「はい、こっそり僕にだけでも教えてもらえませんか?」

「……仕方ない。相田の煙草の灰が落ちそうだ」

「えっ?」

「今回は大いに助かった、また頼むかもしれない」ぶっつりと電話が切れた。何のことだろう、相田さんの煙草の灰?鈴木は隣に視線を移すと、相田の左手、ハンドルを握る指の間の煙草が長く灰を伸ばしていたのだ。