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店長はアイス  死体は痛い?11-2

「店に直接聞いてみたらどうですかね」鈴木が言う。「種田、きいてみてよ」種田は熊田に無言に視線を送る。鈴木の頼みを聞くべきかの判断を上司である熊田に判定してもらう、そういった視線であった。決して浮ついた異性への粘土の高い視線ではない。

「仕事だ、頼む」熊田はぽつりと吐き捨て、あえて感情を込めずに言う。その後押しで種田は端末に視線をとした。店内はいたって静か、閑散と言いがたく、お客も数組、数人が思い思いに過ごしていた。二階のお客もトイレに入る姿を鈴木たちが来るまでに二回ほど見ていた。

 事件の一報はある以外人物からもたらされた。鈴木の報告を受ける数十分前に部長からである。事件が起きる、と言う表現ではないにしろ、間接的に事件の深追いを咎めた回りくどい言い方に、からかっているとさえ思っていたが、部長からの連絡は常に重要な場合のみ。なので、遠まわしに危険を知らせたのだとわかる。とにかく、今は二人の無事が確認されたので多少は安堵をしている。これは事件を軽く捉えた私の認識の甘さが降りかかったのだ。その程度の後悔ならいくらでも甘んじて受け入れる。熊田は大きく煙を吐く。網戸の窓から逃げるように煙が排出された。

「種田、電話かけないの?」鈴木は端末を指先で弄る種田にテーブルに肘をついて聞いた。

「店名で検索をかけてます」上下に追う種田の視線が停止。「本店のホームページで取扱商品の掲載を見つけました。……三点とも店舗で取り扱われています。現在の在庫はバツ印がついていますが、大嶋八郎が購入した当時は販売されていたかもしれない」種田は良く通る声ではっきりと話す。彼女の声だけがテーブルから抜き出て指向性を持ち、カウンターの日井田美弥都に聞かせているようだった。種田のライバル心はいつも美弥都に向いている。

「となると、大嶋八郎は紀藤香澄と顔見知りだったかもしれない。ようするにですよ」鈴木がまとめる。「紀藤香澄を殺したのが大嶋八郎で、大嶋八郎は自殺か、自殺に見せかけた他殺で殺害を依頼した」

「誰に依頼したんだ?」片目をつぶった相田は低い声で言う。

「それは、うーんと、殺したい人ですよ」

「頼りない。行き当たりばったりにも程がある。それに、自殺に見せかけて殺したのなら、もっと適切な方法があるだろう。首を吊ったように偽装するとか、手首を切るとか、何で頭を殴るんだ。殴りにくいだろう、自分だったら」たしかに、自殺を装うのなら、首を絞めるか手首を切るのが手っ取り早い。しかし、殴りにくいから、という理由が自殺の可能性を排除へ導くのは腑に落ちない熊田である。自殺の手法がたんに命を奪いやすいことに起因するのなら、首吊り、リストカットが主流となる。だが、凝った演出で死を望む人間も存在するはずだ。命を失う先の事を見据え、通過点のポイント給水所のように受け止めると、派手な格好で指定された区間を走破するランナーと映像が被る。それとあまりかわらないように熊田は思う。自分の考えはおかしいのかもしれない。

「とにかく、紀藤香澄の店を調べる必要があるな」熊田は言った。煙草は半分ほどの短さ。鈴木が隣の種田を警戒、煙草を見つからないよう体を外に向けて煙草に火をつけた。すると、カウンターに戻る、美弥都と対峙した。