コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

店長はアイス 幸福の克服1-2

 中型の複合施設。主にスーパーへ訪れるお客が大半である。古本屋は一階、クリーニング店とファストフード店と間が入り口。開店間もない時間帯しかも平日のために、お客の姿はまばら。高齢者がちらほら、それでも十代、二十代のお客の姿も見えた。買取のカウンターに袋を持ち上げる。重い。

「雑誌なんですが、買い取ってもらえますか?」ポニーテールの女性、私よりも若い。均整の取れた顔は男に好意的な感触をもたれるタイプだろう。

「はい、大丈夫ですよ。汚れが酷くなければ」はきはきと返答。

「じゃあ、これお願いします」

「はい。こちら番号札です、査定が終了次第、アナウンスでお呼びします」

 笑顔に見送られて私は店内で時間を潰す。本はいつも新刊を買う。古本には抵抗感が無意識に働いてしまう。勤め先で扱うリペア商品ならば、使えてしまうのに本だけは、持ち主のにおいや雰囲気に引きずれるようで怖いのだ。長く伸ばした髪のように念が込められている、そう受け取ってしまうらしい。食わず嫌いかもしれない。あと、古本屋を巡ってまで探す、どうしても手に入れたい、そのような本には私はまだめぐり合ってないのかも。

 折りたたんだ紙袋を持って、本棚を巡る。時代小説、海外小説、ライトノベルト、種類は多種多様。本屋では出版社別の配置が主流である、こちらの並べ方はある意味で特定のジャンルを開拓する読者にとっては有効的だろう、と考えた。売り出す方の視点が、客商売に携わると売り方に意識が働く。売れなかった商品が配置ひとつでお客の興味を引くのだ。

 ある棚に哲学書のコーナーが見えた。何気に眺める。歴史の授業でかすめた人名が数々。名前からタイトルを追いかけると一冊の本が目に飛び込んだ。そのタイトルは不幸である自分をレジの店員に知らしめる威力を持つ。大いなる魅力が手を引き寄せて、ページをめくらせた。淡々とした語り口で数ページにひとつのお題が書いてある。言葉は多少の読みにくさと、修飾語の多さに一度目の通読では理解が難しい。立ち読みはあまり、好意的な行為と受け取らない私であったが、本を読み進む手が止まらない。先を欲する。内容の理解に行きつ戻りつで文を追った。まったくわからないほどの言葉でもないので、前後の文脈を何度か読み返すと理解に及ぶ。流れる文体でもなく、また現代の言葉でもないので、すらすら軽快な文章とは言いがたいが、腰を落ち着け速度を落として読むには申し分ない。作者と共通した思想のベースも感じた。