コンテナガレージ

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あちこち、テンテン 2-3

 三神は身を乗り出す。窓に手をつけて地上を覗いた。傍を歩いていた店員も三神の機敏な動作と視線の先に興味津々。しかし、ウエイトレスの立場を堅守、勇んで覗くことはしなかった。
 傘は異様な跳躍をみせたように、三神は思う。手を離し、上空に放り投げたのでは決して再現できない滞空時間の長さである。突風が吹いたのか、ビル風も考えられるが、屋内から観測するには風に流される比較的柔軟な物体が必要。しかし、世界的に綺麗と形容される日本の街に風に飛ばされるゴミは早々落ちてはいない。
 風を受ける傘は何一つ微動だにせず、歩道に転がっていた。
 和装であった。アスファルトの人物はロングヘアーの巫女のような格好。赤と白のコントラスト、傘とは対照的に二つの色は互いを尊重し合うようで、もちろんそれは見慣れたかつての色合い、パターン、受け継がれた伝統による刷り込みが大きなウエイトを占めている。取り巻きの人物が徐々に距離を詰めた。その間にも、地面の人物のすぐ脇を通行する人はわれ関せずの心持ちで歩き去る。
 そのような状況で、ギャラリーの男がひとり思い切って近づき、顔の辺りにひざまずいた。男が視界をさえぎる、男の後姿、ショルダーバッグの派手な黄色が見えている。男の連れか、白の涼やかなワンピースの女性が倒れた巫女の周囲に作り出された空間に出て、恐々、いやいやをするように首を振る。しきりに男に何かを言われてるようだ。女性は、おびえつつも肩にかけた小さなバッグから端末を取り出し耳に当てる。救急、あるいは警察への連絡だろう。男は大胆に突っ伏した人物を起こそうとする。仰向けの体はかなりの重量を伴う、男は女性を呼ぶ。取り巻きは見守るのみ。無数の端末が巫女の人物と男、それに女性を撮影していた。
 三神は一旦席に落ち着く。隣席の客も首だけが窓に向けられている。また、三神は外の様子を探る。状況に変化はない。
 ワンピースの女性が倒れた、おぼつかない足で歩道のわずかな段差に躓いたらしい。対して、男は上下に定期的な運動を始めた。心臓マッサージである。心肺停止か。持病や発作か、外的な要因か。うずくまっていたのはその予兆かもしれない。しばらくその光景は変わらず、救急車の到着が人の配置を動かした。運ばれる巫女の姿。見送る男と女。手元を離れた開いたままのまだらの傘。散会するギャラリー。
 パトカーが到着、黄色いテープで封鎖、一挙に事件の様相を呈した。
 ぱっとディスプレイにメールの到着を知らせるサイン。ゲラの進行具合を三神の担当者が尋ねる内容である。完成度は八十パーセントと簡素でそっけない文章を送る。仕事なのだから心のこもった文章はそもそも書く意味がない。伝われば満足。三神はそう思う。仕方なくというか、進まない作業の手を休めて、催促されたゲラに取り掛かることに決めた。視界の端では赤色灯の淡い赤が、定期的に光っていた。