コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

あちこち、テンテン 7-3

 説教じみたしゃべりは館山には堪えたみたいであったが、彼女は店主の言葉を反芻し吸収、飲み込み、飲み下し、繰り返し取り込もうとしていた。料理は二品目をチョイスした。ひよこ豆がいいアクセント、もやしとの愛称が抜群にいい。ナンプラー独特の匂いも少量ならば気にならないはずだ。厨房の小川安佐は話に割り込むことなく、珍しく黙々と作業をこなしていた。今日は口数が少ないように、店主からは見えた。気のせいだろうか。具合でも悪いのか。怪我をしない程度ならば見過ごすことにしよう。
 ランチは営業時間の三十分の前に用意した分の仕込みが底をついてストップ。数十人のお客を逃してしまった。観測の甘さである。しかし、これも経験のうち。やはり、見慣れた食材はメニューだけで目を引くのだ、ひとつまた収穫が増えた。食べられなかったお客にはまた足を運んでもらうことを祈るばかりだ。ランチを乗り切った店は従業員を順次休憩に入れる。いつものように、最初は館山から。
「館山さん、休憩入って」店主は布巾で水滴を皿の水滴を拭き取る館山に時間を告げる。
「私も今日から休憩をやめます」突然の宣言である。しかし、店主に動じた様子はない。「聞いていますか、店長」
「聞いているよ。十分聞こえてる」
「許可をください」熱のこもった声だ。
「今日や明日は多分乗り切れる。一週間、一ヶ月を続けられるだろうか。君から今日だけは休憩を、とはいいづらいと思うけどね」店主はわざと、嫌味をこめて、返答した。コホンとひとつ咳をする。
「料理を教えてもらうにはこれしか方法がないんですよ。だって店長、忙しい、時間がないからっていっつもはぐらかしてばかり、私、知りたいんですもっと」
「毎日新しい料理を作れるかい?わからないということは、問題にぶち当たる状況だと思うんだ。押しても引いても先へ進めない、万策尽きた人が言う台詞、言葉だ。君は可能性をすべてを試したんだろうか、私にはそうは見えない。いつかは、私が教えてくれると胡坐をかいている」
「何一つ、店長が私に指導したことなんてありませんよ!」劈く館山の声は、興奮すると高音に変わるらしい。またひとつ発見。これが彼女の本質である可能性は大いに高い。それが彼女そのもの。まだ、留めて開放を許していない彼女がいるはずだ。料理には感情の開放が必須。
「店長、今日はリルカさんに厳しすぎます。私だったら泣いているところですよ」沈黙を貫いた小川安佐が満を持して会話に参戦した。先が思いやられる。ホールでは国見蘭がせっせと消費したテーブルの調味料を補充していた。