「ほうら見てください。店長のお墨付きですよ!」
「うるさいなぁ」お客のいない店内だから許される言動、やり取り。場面での切り替えはわきまえていると店主はあえて叱らない。普段の行いが言動に表れるだろうとは考えている。しかし、手取り足取りすべてを漏らすことなく教える義務を僕は受けられない。
「……怖いです、リルカさん」
「まだなんかいいたそうだけど。頭使ってんのこっちは、静かにしててくれって言うお願いはさ、守れないことなの?」
「館山さん、そのへんで」エスカレートしそうなので、ここで止めに入る。
「だって、店長」
「二度目はなしだ」
「はい」
「君はこの時間だけ考えているの?だったら、とても不都合でそれだとアイディアは浮かばない」
「お言葉を返すようですが、仕事中は考えられません。忙しくて目先の処理で私店長みたいな切り替えは難しいです」
「忘れそうになったら何を考えたいたのかを思い出す。それだけだよ、僕がしている発想は」店主は包丁から手を離した。「思いつきはいつだってどこかに転がっている仕組みの手を借りるのさ。ゼロからの考えでは、日々のメニューには不向きだ。そこらじゅうに広がっている現象、物質などを言語化しワードを浮遊させる。簡易にそれらの成り立ちや名称、効能、性質、をあてもなく自分なりに想起すると自動的に共通性とルートが導き出される」館山の斜めに傾いたな顔を感じ、店主は噛み砕いて話す。「簡単に言うと、考えを一旦言葉に置き換えるのさ。出力した上、解像度を下げて関連を見出す」
「話が見えません……。つまり、食材を言葉に直して、後は思いつくまで何もしない、そういうことでしょうか?」はっきりとしない答えのない現象に館山はわりと恐怖心を抱きやすい。表の態度は本心を覆い隠すカモフラージュ。僕が年齢を重ねたための見え方だろうか。