コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 6-5

「あっ、来ましたよ」見習いが言ったそばからドアが無造作に開かれた。二人の刑事がまた登場した。慌しい朝である。
「おはようごさいます」男の刑事、熊田が率先して言う。「お時間をいただきたい」
「唐突ですね」仕儀は笑う。開店時間直後に予約したお客はいない。一時間後に二人。時間には余裕がある。二人をソファに案内、コーヒーを見習いに頼んだ。
「また事件が起きたらしいですね、通りのお店が立ち入り禁止になっていたと伺いましたが」
「正確にいいますと店ではなく、店の裏手、ビルとの間が現場です」
「まずなぜ私にそれを伝えにいらっしゃったのか見当もつきません」
「あなたの証言が偽証ではないか、本部での見解です。私は部外者、管轄外なので本来なら昨日のうちに引き下がるはずが、その偽証を取ってきた責任で、真偽のほどを確かめる役目を請け負いましてね、あなたに訪ねたわけです」畏まった言い方はやはり取り繕うための偽装。仕儀はこういった特性を持つ人物の言葉をあまり信用しない。
「見たままを話したつもりですけど」
「少女ではなく、少年の可能性は持たれませんでしたか?」
「はい?いくら若くても女の子と男の子では雲泥の差。男の子がいくら髪を伸ばしたところで女の子と違います」
「具体的な見分け方でもあるのでしょうか」
「直感ですよ。好きか嫌いかの具体的な指標は作れません。それと同じだと思います」
「そうですかあ」熊田はため息をつくとタバコを取り出した。
「禁煙です」手のひらで仕儀は制した。
「失礼」軽く首をすくめて熊田がタバコをしまう。隣の種田は石像に扮した佇まい、生気が感じられない。
「まだ開店前なので、申し訳ありません」
「気になさらないでください。吸えないのならば我慢できます」
「あの、どこが私の証言と異なるでしょうか?」間違ったことは何一ついっていない、見落としはあったとしてもだ。
「水鉄砲で窓を汚した、あなたの証言ですけど、その水鉄砲が見つからないのです。防犯カメラはあいにく、向かいの店舗は改装工事をしていますし、両隣の店も天井付近からのカメラ映像で出入り口を横から撮影する形で通りは、入口のあたりに人が立ったときに映るぐらい、避けてしまえば少女の姿は映りません。そのほかも店によってはカメラが取り付けていない。蕎麦屋には格子の出入り口を入った先にカメラが据えつけられていますが、これも店内を映したアングルなのでやはり通りが映る時間はほんのわずか。おおよそ少女の通過時間に、引き戸は開いていませんでした」