コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 6-7

「……場所を変えましょうか。ちょっと出てくる、十一時にはもどるわ」見習いの男に告げて、仕儀は刑事二人とたまに利用するカフェへ移動した。お客は一人、小気味いいタッチでキーボードを打っている。その隣に私たちは座る。窓際の席。
「先ほどは失礼しました」種田が丁重に謝る。仕儀が頭を上げてください、と言うまで彼女はメラミン樹脂でコーティングされたテーブルを見つめたままであった。
「事実ですし、まあ、店では隠していたので、ちょっと驚きはしました。昔のことです」そう、昔だ。今日の地下鉄で少女に見惚れたのも無意識に私の子供を思い出したのだろう、仕儀は行動に理由付けを行う。
「あなたは目撃した人物を娘さんに重ね合わせたのではと私は考えました」種田が話す。「少女ではなくて少年という可能性はやはり否定されますか?」
「改めて言われると、いいきれない部分も出てきますね。少年に化粧を施せばもしかすると見間違えるかもしれません。けれど、……少女に見せて何の意味があるのです?私に思い出させようとしたからですか?」
「失礼ですが、お子さんの父親は?」
「警察ならば調べられると思いますけど」多少つっけんどんに言ってしまった。しかし、これぐらいのあたりは大目に見て欲しい。「五年前まで籍は入れずに暮らしてました。娘は認知してもらったので、相手方のご両親に引き取ってもらいました。母親の愛情よりも取り巻く環境を選んだのです。子供は勝手に育ちます。私がいてもいなくても。おかしいと思われるでしょうけど、でも別に愛していないわけではありませんよ。好きですし、今からでも一緒に暮らしてみたいとは思います。……私には選択権はない。彼女が持っている。そうは言っても顔はもう、何年も見ていませんね。こんな話と事件が関係あるとは思えませんが」
 仕儀が会話をやめると見計らったようにコーヒーが運ばれた。三人はそれぞれの一口を飲む。
「事件当日、店を数十分離れたそうですね?」熊田がタバコを取り出して話を再開した。仕儀は、素直に天井に手のひらを向けて喫煙許可に合図を送る。隣の種田はどうやら煙に嫌悪を抱いているらしい、するどい横目で熊田を睨みつけた。タバコに火が灯ると仕儀は応える。
「ああ、それは支払いですね。変更した引き落としの口座から家賃が引き落とされていなくて、振込みにH銀行へ行きました」刑事たちが疑いの目で見つめる。無理もないか。