コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 7-4

「ご自身の判断に従うのが最善の選択、と僕は解釈します。あなたではありませんから」突き放す言い方でも縋りたい。
「夢を見ました」宅間は中腰、テーブルに両手を着く。「わかりません。私が見た場面かそれともただの創造なのか、昨日の夢に少女の姿を見て、それがおかしくて、私の視点ではなく、ちょうど街頭の防犯カメラのような画面が目の前に広がっていました。私、お恥ずかしい話ですが、昨日倒れまして。その少女と接触、とは言っても触ってはいません。気が動転して気を失ったときの映像を。夢で見たんです昨日」
「……」店主は眉間を広げた顔でこちらを傍観している。宅間は続ける。
「彼女は報道されてるような姿ではありません。白いスニーカーを履いていた、絶対です」
「お客さん、夢が現実に起こったことだと私に認めて欲しいのなら、ほかを当たるのが得策ですよ。警察はその手の証言を欲しがります。彼らのほうが私よりも話を紳士的に丁寧に聞いてくれる」

「あなたに判断を仰いでいます」
「夢か現かどちらであってもあなたが見たことをあなたに適正に的確に適度な感度で返すためには、あなたを知らなくてはいけない。そこまでの時間はあなたにもないし、こちらにも、もちろんありません。意見を肯定して欲しいのですか、それともうなずいて欲しいのか、客観的なアドバイスを求めているか、量りかねますね」店主は指を立てる。「たぶん、あなたにも警察がやってきますよ。なんなら私から話しても良いですし」
「はっきりとは言い切れない。だけど、見た、見たような気がする。夢で見たとはどうしても思えないっ」宅間はポケットで振動する携帯を取り出す。五分前のアラームだ。几帳面な性格が幸いして、休憩の終わりが思い出される。同僚には迷惑をかけられない。そういう人種を最も宅間が嫌っている。「帰ります。どうもお騒がせしました、興奮して申し訳ありません。おいくらです」

「七百円です」
「ではここにおいておきます」宅間は逃げるように入り口、半身で頭を下げてドアをくぐった。飛び出したガラス窓からたぶん店主は見ているだろう。おかしな奴だと冷ややかに罵倒してるかもしれない。そうだろうか。早足で秋めいた通りを進み、駐車場へと帰った。同僚は不機嫌な顔、間に合わない私を予測していたのだ。怒りはしない。まして、許しもしない。私が吐き出したことを店主は受け止めたのだから、私は同僚の態度をありのまま判断を下さずにとどめておこう。