コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

がちがち、バラバラ 7-5

 交代してから二時間後、夕方の気配が空を赤く染めて、明かりが乏しくなったときに、二人の刑事が尋ねてきた。ちょうど一台の車を下ろしているときで、その二人も預けた車が目的なのだろうと、宅間は思っていた。しかし、手元に駐車券の控えがない。いつも利用する客ならば、ナンバー・車種・ドライバーの顔は覚えていた。
 回転台に載せた車をお客に明け渡す、交通量が少ない一方通行、気をつけるのは歩行者。黄色いランプが光る。だらだら歩く若者をやり過ごして車を誘導、軽く会釈をして送り出した。
 汗をぬぐった宅間から待っている二人に尋ねた。「何かご用で?」疲れていたので、きつい言い方だったかもしれない。肉体労働としゃべり方は相関性があるのかもと、ふと思いつく。
「宅間隆史さんですね。O署の熊田といいます」
「同じく種田です」
「この近くで起きた事件について伺いたいのですが」
「少女が亡くなった事件ですか?」店主の言葉が早くも現実に起こる。
 熊田という刑事が低音、特定の女性が好む声で尋ねる。「ご存知ですか、やはり」やはり?
「ニュースで見ました」昨日のことは黙っておくべきか、警察と対峙すると話すべきかどうか迷う。聞いて欲しいのに?
「こちらで目撃した、そのようにあなたの同僚田崎さんが言ってましたが」
「……はい、見ました」何もかも調べた上であえて私にしゃべらそうというつもりか。ドラマで見た手口。
「警察に申し出なかったようですね」
「倒れて病院に担ぎ込まれましたし、今日は体調が優れなくて、……私は罪に問われるのでしょうか」
「そんなことになりませんよ」熊田の太い首が左右に一往復。「あなたが突然姿を消したり、嘘の証言をしない限りは」
「休憩に入った田崎さんには席をはずすようにお願いしてます」ほっそりしたショートカットの女性に行動が予測されてる。もう開き直るか道は残されてない。
「信じてもらえないかもしれない、ですが見たんです」
「この子だったでしょうか」男の刑事は上着の内ポケットを探り、写真をみせる。スーツには皺がよっているが、高価な部類。かつて毎日袖を通していたので、目に付いた。写真に顔を近づける。夕刻、室内の明かりをまだ点けるかつけないかの狭間、ビルの影響もたぶんに暗さを作り出す手助けをしているから、みえづからった。けれど、写真ははっきり夢で見た顔にそっくりだった。鮮明にアップになったカメラを覗く不気味でそれでいて抱きしめたくなる瞳。