コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 8-5

「開店直後には店に入ってました。何度かトイレには立ちましたけど」
「座る場所は決まった席ですか?」
「うーんどうだろうか、窓側には座りたいと思ってますかね。けど、いつもあいてますからね、窓側。夏ですし紫外線とか気にするのは女性が多いですし、あの店の割合的には男よりも女性が多い。そちらの刑事さんも窓側は嫌うでしょう?」種田にきいた。的外れの答えが熊田には予測できる。
「ここは窓際ではないのでしょうか?
「曇ってますよ、今は」
「日焼けを気にかけたことはありません。焼けても元に戻る体質ですから」
「クールですね」
「質問に答えただけのことです。熊田さん、続きを」
「白いスニーカーを少女は履いていましたか?」
「いやあ、そこまでは見えませんでしたね」
「倒れた少女も見ていたのでは?そのとき足元は見なかったんですか?」
「うーん、思い出せません」
「今日はずっとこちらで仕事を?」
「立て続けですね。ええ、ずっとではありませんが、一時間ほど前からですかね」
「車で来られたんですか?」
「はい」
「あなたの車で?」
「……バスですよ、シャトルバス」
「車で来られたほうが何かと帰宅も便利だし、バスの発車時間を待たなくても済む。自家用車はお持ちなのに」
「気分転換ですよ。運転中は考え事をしても散漫で、バスだったらいくらでも考えられると気がついて」
「よくご利用される?」
「はい、いや、今日が初めてです」相手に挽回させないために熊田は離脱を選択する。
「そうですか、お忙しいところに押しかけてしまってすいませんでした。我々はこれで帰ります」
「ああ、もうお帰りですか。いやあ、なんだかあっという間でした。はは」
 二人の刑事は一階に降り、駐車場、熊田の車に乗り込む。種田に煙を感じさせないために、熊田はドアの外でタバコを吸い始めた。
「動くでしょうか、彼?」
「バスで帰るしかない選択は無謀な発言だったかもしない」
「しかし、タクシーでも帰宅は可能ですし、この後の予定次第では自宅へ直接帰る時間帯とも考えにくい、説明のしようはあります」
「車でおそらくはここへ送られた、送ってもらったのだろう。ショッピングモールで仕事か、都会に住んでいる人間があえて郊外に出向く、違和感だらけだ。それなりに金銭的な余裕はありそうだし、普段の移動は車のはずだ」
 車が止まるのは正面入り口の左手前、敷地内の駐車スペースの外側、全体が見渡せる位置だ。もちろん、平日の昼までこの場所に車を止めているのはごくわずか。外回りの営業車と買い物に疲れたドライバーぐらいだ。熊田は、じっと正面を見据えてた。出てくるはずだ。三神の車はここへ来る前に自宅マンションに車の所在を確認していた。
 熊田は衰えたものの視力はまだ眼鏡をかけるほどではない、種田もコンタクトで遠方の人物の見分けには十分な視力を有している。
 観光バスが一台、二台と出入り口をふさいだ。観光用のバスは直接バス停ではなく、入り口に乗りつけるシステムらしい。
 熊田はタバコを灰皿に押し付け、場所を変えた。種田は運転席に乗り換える。
 熊田は小走りで正面に駆けつける。
 観光客にまぎれてバスに乗る可能性も考えられる、熊田は息を切らせ車の隙間を走る。
 人を吐き出したバスが一台、動き出した。遅れて次のバスが定位置にコンプレッサーの音だろうか、バス独特の駆動音を鳴らして停車。
 熊田はバス後方を回り、やっと入り口を視界に入れた。