コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

レタリ-ピリカ-カムイ

鹿追う者は珈琲を見ず 3

解き明かしては身の危険が迫る、彼女は僕に忠告してくれたのかもしれない。 喫茶店内の照明が消えた。美弥都は階段を上る、フットライトが階段の側面に青白く光った。水族館、いつか訪れた夜の水族館と記憶が交じり合う。自室に帰るかと思った美弥都は例の部…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 6 八月四日

人形だね。僕の意見を引きちぎる、デスクを挟んだ対面に座る警察は煽った、本性を出せ、真実を隠してる腹の内をさらけ出すのだ、お前は捕まる、良くて虚偽証言の立証に自費をつぎ込み空からになってしかもにいたずらに数年を棒に振って漸く無罪を勝ち取る、…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 6 八月四日

朝にこれを書いている。見張りと待機車両。窓を後ろ背に手放せなかった机に頬を摺り寄せる、布団の出し入れなどへっちゃら、ベッドで眠る心地よさと布団との違いが私にはいまいちわからなかったんだ。机はダイニングテーブルも兼用にしてしまう。1DKの間…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 6 八月四日

人と人成らざるモノの解釈を募りました。集計結果を待たず意見の歩み寄りや誤った解釈の訂正を諦めた私の振る舞いこそ、浅はかでしたの。代々伝わる教え、それで手一杯。ふさがる両手は卑しくも米袋を抱えておきたいのでしょうね、飽食とはいかにもいかにも…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 6

「食事の提供は如何に申し出を受けようとルームサービスの一切をはじめから断る姿勢を貫く、お分かりいただけたらお手数ですが、宿泊者名簿とこちらにもサインをご記入ください。トラブルの際にこちらの承諾書を提示させていただき、場合により退館を願い出…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

アイスコーヒーは上出来、店で飲む味より果物みたいな甘さがあとに残った、鈴木の感想。 チェックインの受付開始時刻が迫り慌てて階段を駆け上がって見せた足の裏、白いのは石のせい。 解け切らずグラスの曲面に熱を頂く対象を変えた、ごつごつ重なる氷は、 …

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

ちなみに係員は無実、証拠不十分で不起訴処分を受けた、と資料の続きを読む鈴木が言い添えた。 掘り返す。鬼や蛇を期待する何者かはせっつき、気が気でない者は穴へ蹴落とそうと機を窺う。 要するに毎年の冷やかしは本腰を入れた捜査を寄せ付けずに撒いた虫…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

「どれかひとつ豆を選んでください」話は聞いていた、美弥都は片目で物を言う。「まだ準備段階だと支配人さんが……、いえいえ、もうそれはいだけるものなら、はい。しかし、どれがどれ、といいますか、違いが僕にさっぱりでして」「どれも同じに見える、違い…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

「遡ること二年前の八月の三日、『ひかりやかた』の特別室『ひかりいろり』で男性の死体が見つかった」鈴木は資料を読み進めるリズムと言い回しを適用、美弥都の前に登場した訳を説明する。「死後、二三時間が経過した状態で見つかる。これが少々腑に落ちま…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

休憩を入れる、決めたら即実行。日井田美弥都はカウンター席に鈴木の着席を促した。お客の目線が平行に近い、すぐに慣れるだろう。 鈴木はグラスの水を飲み干す。汗が噴出してハンカチは表と裏共にびっしょり排出した老廃物を吸い込みつくす。良ければ、美弥…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

「程よい食事時など彼女にあってないようなもの」、という説明は抜きにただ一言、「満たされています」、とだけ山城には返した。 十時を過ぎていたか、飛行機の搭乗を機に一年前購入したアラビア数字の文字盤をほのか青白く照らす腕時計で時間を確かめる、見…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

時計は午後の八時を示す頃、食事の誘いを受けたが、あっさり断った。店長は荷物にこっそりハムサンドを忍ばせていたのである、どうせどこにも出歩かない私を見越したらしい。帰り際に鞄の重量や材質について尋ねた理由が今さっきハンカチを取り出すついでに…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

別段他の出場者、私に負けた方々を腐してるのではまったくなく、取り組む姿勢が異なるのだ、という美弥都の解釈である。何しろ、コーヒーに携わる者は得てして豆を取り巻く諸事項を把握し漸く一人前、提供する資格を有する浅はかな信念を持つ、といわれる業…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

使用器具の配置決めに数分、焙煎豆(豆は密閉容器内の豆のみ、ストックはなし)とストロー等消耗品の数量を専用端末にて改めて目視し確認を取るのに約三十分、支配人山城の差し入れにより已む無く一度中断を挟み(スポンジケーキを片手で豪快に頬張り摂取、彼は…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 4

号令を掛けてくれたら喜んで逃げたいほどだ、 なんだかそれは人だったから、 その形を残していたから、 皮膚組織はあってはならない状態でこれが視界に映し出されていること自体がもう、空間を捻じ曲げ、 いびつで、その所在のなさ、 不快感の塊が僕に湧き上…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 4

参道みたい、お客様が漏らした言葉が心境とぴたり重なる。回廊の手すりを手前その奥に林床植物が日の目を浴びる緑道、両側にそびえる白樺が白壁のように谷間に場違いな建物が現れたしまった、現実に装飾を施さないといけないのだ、覚えてしまうからね、なに…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 4

フロントの受付裏に休憩室、更衣室という僕ら係員の居所はこんな配置。出入り口は真ん中の休憩室と駐車場に繋がり更衣室は一つ前の休憩室とのドア一枚と室内に男性・女性用のロッカーに入るドアを各一枚備える。休憩室を出て正面に男性陣の更衣室ドア、左の…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 4

電子錠が引き起こす誤作動のわりにランプの明滅はやたらめったら長かった。もしやと、勘ぐる。休憩時間内は休憩室に留まって一歩も外に出ない、これを誓い遵守するか、屋外を選び休憩終了の直前に戻る、この二択を毎度選ぶ。午前十時近辺に集中するチェック…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

彼女はあらかじめ返答を考えていたかのよう速やかに返答を繰り出した。誘い水、最初の提案は真意ではなかったのだ。「では、産地、受賞品種それから収穫年度によらず豆は『ひかりやかた』の判断にお任せをします。山城さんや前任者の購入リスト等からでも構…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

開店時刻は午前十一時から午後九時迄。九時以降の入店は控えること、お客様たっての願いであろうと毅然と拒否の態度を示すよう注意を受けた、長居に対する一応の理解は得ているようだ。お客の自主的な行動に軽く依存した緩やかにも規則を、これが慣例である…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

階段を下りて支柱のような箱のような窓があり、しかし中は見えずに住まいのようであり牢獄にも映る、果たしてこれは?美弥都はその壁面をぱしぱし叩く店長と大木の威圧をかもし出す鉛色の塊を見上げた。数歩支柱を離れて山城が説明を施す。「特別室『ひかり…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

エレベーターの着地音が通路の奥深くがパンが焼けた完成の音量に絞って届く、美弥都は耳がいい。 上階、地上階から呼び寄せる係員が降り支配人の山城をフロント業務を交代した、女性である。会釈と挨拶を義務的に交わす。影を纏った小柄な人物、水平に切りそ…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

かつての弾薬庫、貯蔵庫を思わせる音の広がりは地下駐車場とは似ても似つかない、別種の気配を放っていた。〝ひかりのみち〟は地上、駐車場に始まり建物へ通じる両サイドに林立する垂直の白樺の間は通常どころか搬入搬出作業や建設作業者の通り道に使った完…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

付き合いの歴史、しかも対象との関係性の長さによりけりとは。私には拷問に匹敵する。 平行線は提案を受けた時点で脳裏を過ぎっていたはずも、決行に踏み出したというと何しかしらの賞賛と淡い期待は仮初ながら待ち構える、このように店長の心境は言い表せた…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 2

三ページ目 (メモから日記帳へ書き写した。ここからはフロント業務の合間を縫って、日記帳に直接書き込む。) 続→ (警告は届いているのだからホテルには向かっているに違いはないのよ。言っておくが私が離れる間『ひかりいろり』を覗く宿泊客や部外者は存在し…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 2

「お客様、ご利用時間を過ぎましたが、お客様ぁ」 (ドアを叩くも返事は確認ができなかった) 「プライベートを覗き見る趣味はわーたしにはありませんから」 (ドアが開ききらず約四分の一開いてつっかえる。抵抗が感じられた) 「前もってお伝えしておきまーす…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 2

「おかしい頭」、耳にこびりつく。 見たままを話してるさ、嘘つきのほうがこの世の中多いではないか。……私だけが割を食う。あのとき部屋を覗いたんだ、同じ人物に何度質問を受けたか、思い出すだけで打ち付ける鐘楼がけたたましく頭蓋が割れそうに痛む。 日…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 1

畑は台地にあったらしい、玉蜀黍畑を抜け視界が開ける、三メートルほどの坂を下って舗装された道路と一軒の商店に出くわした。高台の塀に沿って川が流れる、用水路にしては川幅が広い。予測するに氾濫した際の土砂が平野部に堆積、それらが隆起し不釣合いな…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 1

凪の薄緑と紺碧の小波と別れ、平野部とはるか遠くかすか山頂付近の霞を羽織る連なった山々に視界が切り替わる。正午前である。午前六時に美弥都は家を出た、平野部に入ってからはものの数十分で目的地に着くらしい、店長は宝の持ち腐れのナビ(午前中雹に見舞…

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 1

「電車とタクシーを乗り継ぐ、それほど車移動に時間的な利得は見出せません。最寄り駅から歩くと思われたのですか?」日井田美弥都は店長の助手席に揺られる。 半ば強制的だった。 自宅から目と鼻の先無人のH駅に向かう矢先、歩道に出た所へ見慣れた車が颯…