コンテナガレージ

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自作小説-ソール、インソール

飛ぶための羽と存在の掌握4-1

「次から次へと……」 署内で事件の一報を聞きつけた熊田、種田、相田、鈴木は茫然自失としていた。漏れ聞こえる事件の概要を拾い上げるとこうなる。M車の不具合を訴えた不来回生は昨夜未明にS市中心街の立体駐車場を出てた直後に猛スピードのSUVに運転席…

飛ぶための羽と存在の掌握3-2

煙草が半分灰になった。急いで携帯用の灰皿を取り出して慎重に灰を落とした。きれい好きでも環境に気を使っているわけでも、まして罰金の支払いを危惧しているわけでもない。ずっと前からどこでもタバコが吸えるようにと常に携帯してるのだ。他人にどう思わ…

飛ぶための羽と存在の掌握3-1

空が地上の絶え間ない明かりを放って夜の感覚が薄れて見えた。昨夜の工事で店舗はほぼ完成の色を匂わせて、それでもまだお披露目には早く、細かな手直しを施すため入念に出来上がりの細部を書類と見比べて完了のチェックを入れていく。 不来回生は今日も立体…

飛ぶための羽と存在の掌握2-3

「そうじゃなくて、ほら空間をプロデュースする仕事なので、常識でははかれない発想に身をおいている。だからでしょう」 「やけに肩を持つじゃないか。そいつのファンかよ」 「芸術家ってそんなもんでしょう。だって、常識内で創りだしたところでそれは見た…

飛ぶための羽と存在の掌握2-2

事件は七年前の三月に発生。理知衣音は通り魔殺人の被害者五名の内の一人で、事件の死亡者は三名、二名が腕や背中の切り傷を負い軽傷。理知衣音は一週間の隔離を兼ねた入院を経て通常の生活に復帰。しかし、彼女は事件から一ヶ月後に休職した。当時の社会の…

飛ぶための羽と存在の掌握2-1

鈴木は、熊田と相田からの無理矢理ともいえる重圧に負けて、PCで過去の事件を調べていた。自宅でシャワーを浴び、着替えてまた署に戻ってきた鈴木と相田は、休む暇もなく仕事に取り掛かる。しかし、相田は鈴木に事件の検索を任せた。なんで僕が、という感情…

飛ぶための羽と存在の掌握1-3

「かけてみるか?」熊田は携帯を耳に当てた。 「はい」 「お疲れ様です、熊田です」 「どこで見ている?近くにいるんだろう」 「バレていました」 「タイミングが良すぎる」 「以前に事件で顔見知りになった」部長はキョロキョロとあたりを見回してこちらの…

飛ぶための羽と存在の掌握1-2

熊田さん!」交渉の末にやっと勝ち取ったタバコを、噛み締めて味わう熊田に種田のキリリとした針のような声、熊田は空想から戻された。しかし、手に入れたタバコをそう簡単に失うわけもなく、口に加えていつでもハンドルを握れるよう、伸び始めた灰を落とし…

飛ぶための羽と存在の掌握1-1

灰都を送り出すとほんの僅かの隙間で深く息を吸って吐き出す。視力がほぼ戻ったと理知は確信した。駐車場で車のフロントガラスの雪をそぎ落として目的地へと急ぐ。車の鍵はポストに投函されていたのを昨日灰都が郵便物と一緒にとってきていた。家の鍵と車の…

ROTATING SKY 8

理知衣音の勤め先は住宅街の十字路の角、道路を挟んだ向かいには公園があり、熊田はその前に車を止めて待機していた。種田が助手席に同乗。雪で埋まる公園は子供の歓声で満たされていたが、正午をすぎるとピタリと辺りは静かになった。わかりやすく捜査員の…

ROTATING SKY 7-2

「結局ですよ」鈴木の声が高くなる、興奮時の鈴木の兆候である。「触井園のクレジットカードは彼女が持っていたのでしょうか」カードは触井園京子の所持品から発見されたが、相田が訪れるまでにカードを財布に忍ばすことができたなら被害者以外のカード使用…

ROTATING SKY 7-1

センセーショナルにメディアを賑わすかにみえた報道は、有名芸能人の飲酒喫煙騒動によって風向きを変えた。新聞では数日にわたって記事を掲載していたが、人々の関心はテレビのゴシップに花を咲かせる。被害を最小限に抑えた結果にM社の顔は綻んでいることだ…

ROTATING SKY 6-3

救急病院で処置を受けた理知衣音の目は大事には至らなかった。目を洗った事が幸いしたらしい。医者が言うには明日になれば視力は回復し目が見えるようになっている。しかし、何度か病院には通院してもらうとのこと。 視界は治療の目薬で更にぼやけている。理…

ROTATING SKY 6-2

男は微動だにしない。様子がおかしい、窓を開けてどけるように言おうとした刹那に、液体が目に飛び込んできた。咄嗟につぶったが対処が遅かった。 「うわっ、なによこれ」痛い、ヒリヒリと眼球を侵食するような痛み。男が動いた気配、体を掴もうと手を伸ばす…

ROTATING SKY 6-1

これまで守ってきたものが壊れていくようだ。刑事たちの来訪に、私は職場での居場所をなくしつつある。面と向かって警察が来た理由を聞いてこないだけでも、良しとしよう。 昼食の休憩時間に、上司に呼ばれた。警察と話をした会議室である。もう見られること…

ROTATING SKY 5-3

// 店内への搬入はガラス屋の登場を残すのみとなり、自分たちの仕事を済ませた作業員は帰っていった。作業時間は三時間弱。帰り際に、心遣いのコーヒーを配って渡した。 ガラス屋はそれから約二十分後にやって来た。すぐさま私が確認、取り付け作業に入った…

ROTATING SKY 5-2

明日、正確には今日の深夜から工事に着手する。金銭的な支払いは店舗が完成し、クライアントの納得が貰えてから残りの半分を受け取る。早朝までの活動時間であるが小さな店舗だけに一週間を完成の予定と、工務店と取り決めた。 正午になり昼食を勧められたが…

ROTATING SKY 5-1

// クライアントと約束がある日は、体が自然と目を覚ます。朝といっても日はすっかり昇り、カーテンの隙間から入った明かりが入室を催促しているようだ。打ち合わせで話す順序を起き上がったベッド、起き抜けの頭で反芻。大丈夫だ、見落としはない。 身支度…

ROTATING SKY 4-4

// 「つまり、他の人間が住んでいたってことですか?」相田が熊田にまとめた考えを投げた。 「何となくそう感じたんだ、確信はないよ」 「殺されたのは触井園京子ですよね?」鈴木が顎に手を当てて気難しそうに眉間に皺を寄せる。「そうか、彼女は触井園京子…

ROTATING SKY 4-3

// リビングの血は乾き、フローリングの奥に黒ずんで染み込む。熊田は血の跡を避けてカーテン傍のソファに回り込む。絞殺と刺殺のそれぞれに用いられた道具は現在も発見に至っていない。 「被害者は次の航空券を買っていただろうか」不意に熊田がつぶやいた…

ROTATING SKY 4-2

// 「怪しいですよ」口をすぼめて鈴木が反論する。 「世の中で発表されている事柄なんてどれも正面を切って正しいとは言いがたい。裏付けも信じられている理論や論理に基づいて確証がなされているのが現状だ。それらの基準となる仕組みを正しいと信じている…

ROTATING SKY 4-1

// 「大人が四人も乗るのは窮屈ですよ」熊田の新車に助手席に種田、後方熊田の後ろに鈴木、種田の後ろに熊田が陣取り、活気あふれる捜査員の命令を無視した行動が開始された。 事件を追い続けることは、自らの首を絞める事態を誘発すると自覚しての捜査継続…

ROTATING SKY 3-1

// 尾行は体力を消費する、とくに人混みの都会は相手に見つかりにくい反面、見失う確率も高い。部長は不来回生の自宅から彼を追っていた。不来は早朝から行動を開始した。部長は一人行動を予見して車で彼を追走する。ここ数日は深夜に帰宅し、翌日の午後に家…

ROTATING SKY 2-2

明かりが差してきてもビルに隠れて太陽の姿は見えない。冬の北国は室内での生活が自然と時間の大半を占めるから、日の光が差し込むと旧友に会ったみたいな顔を作ってしまう。 夕方、午後四時を回ったので、まとめた構想をスケッチブックにしたためて店のシャ…

ROTATING SKY 2-1

S市中心部、駅前通から外れてSS川を南下、大通りに行き着く手前をナビは示していた。中心部は交通量を一定に保つ目的で一方通行が多用されて、目的地には大きく回り道をしないとたどり着かない。もう一つの問題、駐車場所が見つからない。急遽、赤信号を利用…

ROTATING SKY 1-5

「そのようですね」 「無意味な質問はよしてください。からかっているのならもう終わりにしてください、仕事があるので」立ち上がろうとすると座るように男の刑事がなだめる。私は犬ではない、あんたたちみたいに時間を使えないの、もっと正確で決まりきった…

ROTATING SKY 1-4

「大学での学部は文学部ですよね?」 「はい」 「現在の職場とは関係がなさそうですね」 「不景気ですし、希望した会社や仕事に就けるような時代でないことはご存知でしょう」 「そうですね。では、先週、我々が訪問した日の午前中はどちらにいらっしゃいま…

ROTATING SKY 1-3

いつものように工場隣の駐車場に車を止めて出勤した。 更衣室のドアに手をかけた際に、呼び止められた。 「理知さん、ちょっといいかな」白い抗菌コートを着た上司が手招きする。皺の目立つ目立つ顔で呼んでいた。 「着替えてからでもいいですか?」上司の表…

ROTATING SKY 1-2

「起きてってば、ねえ、ねえったら、朝だよ」灰都は息を吸う。「七時二十分!」 頭が痛い。理知衣音は居間でそのまま寝てしまったようだ。灰都が仕度を完了させ、ランドセルを背負っている。 「何時?」 「七時二十分、ねえ、僕は大丈夫だけど、お母さん仕事…

ROTATING SKY 1-1

警察に事情を聞かれたのが一週間ほど前。あの人の死を聞いてきたっけ、もう忘れてしまった。警察の顔も覚えていない、女性が一人いたのは思い出せる。 今週も忙しかった。先週はようやく日曜に休みがとれたのに朝から灰都がくっついて離れない。買い物でもべ…