コンテナガレージ

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自作小説-ソール、インソール

DRIVE OF RAINBOW 8-3

「そうだ」熊田が同意。 「触井園京子もM社の車で死んだ人物も繋がっているってことですか?」鈴木が高い声でいう。 「直接的な関係性は持たないが、連鎖的に影響し合っているとでも言うべきかな」 「手がかりがつかめそうな所だったのに、もう事件を調べ直…

DRIVE OF RAINBOW 8-2

熊田はドアを開けて廊下を通り、デスクには戻らず自販機でコーヒーを買う。管理官の隣にいた人物ははたして、給料に見合った働きをしているのだろうか、と熊田は考える。研修中の身かも知れない、ゆくゆくは彼が管理官となり現場を指揮する立場に成り代わる…

DRIVE OF RAINBOW 8-1

事件発生の二日後、新聞紙面はM社のリコールを報じた。無論、熊田たちが調べていた車種である。記者会見が開かれ、矢面に立たされた幹部と社長はお詫びと当該車両の早急な回収及び徹底究明に尽力をつくすと明言し、記者たちの執拗な揚げ足取りの、失敗を餌に…

DRIVE OF RAINBOW 7-3

「どのような事件です?」 「具体的には言えん。強いて言えば、凶悪な事件とでも言っておこうかな」 「それではあまりにも抽象的過ぎます」鈴木が首を振る。 「鈴木、お前そんな話し方だったか?」 「へ?おかしいですか」鈴木は空いている手で口を触る。 「…

DRIVE OF RAINBOW 7-2

相田はその間に、新しいタバコに火をつけた。缶コーヒーはあと二口で飲み終わる量、ここからは一口の量を減らすか。 口に苦味と仄かな甘味が届く。横なぐりで視界を遮っていた雪はパタリと止んで、空一面には絵の具をぶちまけたような青が広がっていた。窓の…

DRIVE OF RAINBOW 7-1

「何だお前たちしかいないのか。熊田は?」喫煙室に鑑識の神が姿を見せた。自分から動いたことがない、という噂の人物が直にお出まし。 「耳がついていないのか?」相田と鈴木はぽかんとあっけにとられた顔で現れた登場人物をとらえる。 遅れて相田が我に返…

DRIVE OF RAINBOW 6-3

「おまえ、ではありません」即座に訂正を求める。 「すまん」熊田はポリポリと頭を掻く。 気を取り直した種田は質問に答えた。「自殺か他殺か、あるいは自殺を手助けした他殺のどれかで、解答は三通りですね」 「コートを着ていた、荷物は車のトランク、室内…

DRIVE OF RAINBOW 6-2

「譲歩したな」ミラーに映る熊田の口角が微笑をたたえた。 「おそらくは断ったでしょう。刺してくれという願いを素直に聞き入れる人はまずいません」 「そもそも彼女には相田が事故車を追って辿り着いた。だが、その車は丹念に調べられていない」 「そうです…

DRIVE OF RAINBOW 6-1

新C空港で手がかりを得た翌日、種田は熊田とともに触井園京子の自宅に足を運んだ。雪の降り方は優しく、時折青空がのぞく陽気。見張りの制服警官と挨拶を交わした。熊田は外にとめられた被害者の車に鑑識から借りたキーを差し込こむ。種田は反対に回り後部座…

DRIVE OF RAINBOW 5

理知衣音は息子の灰都のお弁当を早朝から作り始めてかれこれ三十分が経とうとしていた。甘い卵焼きと唐揚げ、俵型のご飯に巻きつけた海苔、彩りと栄養を考えてほうれん草のおひたしに鰹節をふりかける。唐揚げは昨夜に味付けを済ませていたからあとは揚げる…

DRIVE OF RAINBOW 4-2

昨日は警察が来ていた。なんだか頼りがいがなさそうな刑事だったと記憶しているが顔はもう忘れてしまった。重要ではないんだろう。私がお金欲しさに細工を仕掛けるなんて馬鹿馬鹿しい。まったくもって稚拙な帰着だ。常套句の、関係者全てに話を聞いているな…

DRIVE OF RAINBOW 3-2・4-1

「なんだよ、驚かせんなよ」 「情報班に書き込んだ奴を調べてもらっていたんです」 「もう上層部がかっさらっていったさ」 「だとすると、情報はもたらされたってことですよね?」鈴木が不敵な笑みを携える。 「お前変なこと考えていないよな。よせよ、厄介…

DRIVE OF RAINBOW 3-1

支店長に、書き込みについてはおそらく自分が対応するのはこれが最後で、後は上層部の捜査員に今一度私に話したように現状で起きたことと、これまでの出来事を伝えるようにと告げて鈴木は署に出勤した。 捜査の継続も上層部が絡めば末端の捜査員の出る幕では…

DRIVE OF RAINBOW 2-3

「鈴木です」 「ああ、朝からどうかしたか?」疲れた声の熊田である。「運転中だからちょっと待て。スピーカーに切り替える……。用件は?」 待ち時間に集中が途切れ鈴木は熊田の声に慌てた。「ああっと、そのですね、M車のサイトにまた書き込みがありました。…

DRIVE OF RAINBOW 2-2

「刑事さんあのこれは脅迫状ではないでしょうか?でしたらすぐに本部に連絡して協議しないと……」 「脅迫状のことを知っている社員の方はどのぐらい、いますかね?この支店の方は全員知っているのでしょうか?」 「ええ、整備士と不具合のあった車をお客様に…

DRIVE OF RAINBOW 2-1

鈴木は家を出る直前に連絡を受けて一路、自動車会社Mの支店に急行した。なんでもまた似たような書き込みがされていたというのだ。営業時間前でお客専用の駐車場では社員がせっせと昨晩積もった雪をスコップで掻き、その男性社員に支店長の所在を確認、裏口ま…

DRIVE OF RAINBOW 1-5

車に乗り込んだ彼女はゲートを通過し空港を出て行った。方向はS市方面である。 「種田」名前を呼ばれただけで、種田は携帯を耳に当てていたのだ。行動の素早さと展開に警備員の牧野は、またワクワクし、退屈な日常を埋めるように事の成り行きを見守っている…

DRIVE OF RAINBOW 1-4

「空港から一番近い経路で駐車場に向かうと、どのカメラに最初に映ります?」 「そうですね。ううんと」牧野は画面に施設内の地図を呼び出した。無骨な人差し指で指す。「このエレベーターが最短です。エレベーターから全て地下と一階、二階と三階へ行けます…

DRIVE OF RAINBOW 1-3

「O署の熊田です」 「同じく種田です」二人はお互いのまで自己紹介をした。 「刑事さんが一体こんな時間にどのようご用件で参られたのでしょうか。こっちは忙しくてね、あんた方の相手をしている暇はこれっぽっちもないんですよ」そう言いつつも深夜番組を観…

DRIVE OF RAINBOW 1-2

熊田と種田が駐車場に降り立つ。巡回の警備員が万全の防寒装備で歩いていたので、熊田がすぐさま呼び止めると警備員は小走りで寄ってきた。 「どうかされました?」二十代の青年が人懐っこさを全面に押し出して熊田に近寄る。整った顔立ちで人に対する裏の顔…

DRIVE OF RAINBOW 1-1

押し付ける無数の雪がフロントガラスを埋め尽くしては消える。ワイパーは迅速かつ華麗にしかし定期的、規則的なポジションを保持し、えらく健気に振幅。ワイパーが視界に入りながら運転する熊田は、ただハンドルをとられないように適度な力で握り、温室の車…

ワタシハココニイル8-5

「はい」 種田が疑問を呈する。「空港に車をとめるのは必ず帰ってくるからです。しかし、触井園は各地を転々しながら取材生活を送っていたと思われます。空港にとめていれば莫大な金額を請求されますが」 「一理あるな。しかし、被害者の車を誰かが予め運転…

ワタシハココニイル8-4

「保険会社から一通、車の定期点検のお知らせが一通、手紙も一通ですね。最後の一枚は結婚式の招待状、とっくに式は終わっています。家にほとんど帰っていないのはどうやら本当のようです」 「公共料金の請求書がない」 「ネットの電子領収書に切り替えたの…

ワタシハココニイル8-3

「ん?何にか言ったか?」 「気づいたことでもあるのですか」熊田が受け答えに反応しない時は決まって深海に潜っている証拠だ。 「いいや、ただなんとなく気が遠のいてきて」 「お前もそろそろ体力的に辛くなってくる年齢だろう」同意の頷きで神が勝手に診断…

ワタシハココニイル8-2

「鑑識でも推理をするのですね」 「些細な証拠しか見つからなかったのかもしれん。まあ、行ってみるしかない」 食堂の更に奥、廊下の端の一室で足を止めると熊田はドアを叩いた。女性の声で返答が聞こえた、二人は失礼しますと言って入室する。 「こっちだ、…

ワタシハココニイル8-1

午後九時半、署内で働く人間のほとんどが家路を急ぐ頃、熊田たちは鑑識の結果を待っていた。被害者、触井園京子に近しい人物は誰一人浮かび上がってこなかった。唯一、メールで仕事のやり取りを行った出版社の人間が見つかったものの、被害者との面識は初回…

ワタシハココニイル7-5

「何でしょうか、抽象画ってやつですかね」両膝に手を添えて鈴木が覗き込む。 「建物が描かれているんだから風景画だろう」 「それにしても誰かに見てもらうために描いたとも思えませんね。商売として成立させるためにはだってほら、需要に見合った絵を書か…

ワタシハココニイル7-4

「窓は施錠されているのか?鈴木、表から窓を開けてみてくれ」熊田がリビングをなんともなしに眺めて鈴木に指示を出した。 「鑑識が調べたので閉まっているとは思いますよ。外かあ」 「いいから早く行けって!」相田が鈴木のおしりを叩いた。追い立てられて…

ワタシハココニイル7-3

「触井園さんの家はここだけだと思うんですけどね」 「その根拠は」熊田は鈴木に言った。 「下駄箱に大量の靴が入っていました。たまに帰るぐらいなら運動靴とか作業用の長靴とかサンダルを置いておけば、咄嗟の時の間に合わせにはなるし、ましてずっと住ん…

ワタシハココニイル7-2

「それだけっ!?」鈴木は大げさに振る舞うと相田の腕を掴んだ。 「何、驚いてるんだよ」鈴木のすがりつく腕を振りほどこうにも鈴木の腕力は相当なもので、左右に体を捻る相田を持ってしても二人は接触してたままだ。 「だって、だったら車でエンジンかけて…