コンテナガレージ

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自作小説-マーケットキーパー

永劫と以後 1-6

「……白米を使おうかな」 「ただで頂いた食品ですよ、よろしいのですか?」 「明日からライスをメニューに復帰させる。小麦も大豆もとうもろこしも同等に扱いを開始する」 「価格は落ち始めたとはいっても、以前の価格より、一・五倍ほど高額です」 「お客の…

永劫と以後 1-5

「そうだとしても、私、番号は教えてない」 「本当に?」 「なによ」 「いいえ、言いたくないのなら。秘密は堅守ですから」 「あんたの軽い口がばら撒いた可能性のほうがよっぽど高い」 「蘭さんの番号をそらで言えるほど、賢くありません」 「ああーあ。も…

永劫と以後 1-4

「蘭さん、真に受けたんですか?」小川が尋ねる。 「まあ、八割はいたずらだとは思った。けど、店の名前と、何より私の番号を知っているのが、どうも説明がつかなくって、どこからか漏れたにしてもだよ、回りくどく、コンビニ受け取りにするより、店に直接配…

永劫と以後 1-3

木曜の仕込みに店主は取り掛かる。第二の出勤時間に定着してしまいそうな午前八時過ぎ。店の前の雪かきを済ませたので、体がほのかに温かい。暖房を入れてから外に出て、スコップを操ったので、発熱した体だと店内は暑く感じた。水分を取ったために、汗もし…

永劫と以後 1-2

理由は、明確にはならない。 店主の予測もあいまいであった。だから、火がついたら消えるように消火器を取り付けた。 必要や心配は、取り越し苦労。いいや、最初から気になどはしていなかった。 嘘はいけない。 そう教えられた。どうしてか、理由は聞くのを…

永劫と以後 1-1

三月下旬。巷をにぎわす究極栄養食品の販売開始から数えて約二週間。春めいた北国の目印、日中のプラスを越える気温と夜間の路面凍結、ところどころに顔を出す除雪車の削り痕が刻まれるアスファルト、それらが日をおいて、数日間の雪を経て、またまた日差し…

静謐なダークホース 6-5

「店長は、敵にならないと思って許可を出したんですよね」 「うーんと、どうだろか」 「ええっつ」小川が大げさに驚く。「だって契約済ませたんですよ」 「十億円がそれほど大切かな」店主はつぶやく。カレー用のたまねぎの色がやっと黒ずんできた。 「もし…

静謐なダークホース 6-4

「はあ、それでは、同乗させていただきます」半ば強制的に弁護士が税理士を車に乗せる許可、いいや同意の返答を引き出した。会話は弁護士が上手。 「私もお暇します」二人に遅れて、荷物をまとめると比済は引いた椅子をそのままに店を出た。知り合いの館山に…

静謐なダークホース 6-3

「何か紙の契約書と代わりがあるのですか?」店主は、顔を傾けて二人に聞いた。代表して弁護士が応える。 「いいえ、まったく同等に扱われます。しいて、デメリットをあげると、そうですね、改ざんの恐れと契約の捺印を味わえないこと、ぐらいなものでして、…

静謐なダークホース 6-2

始業の二時間前に、こうして店主が到着。その五分後に小川、国見、館山の従業員三名が出勤。続いて、比済ちあみがその十分後にやってきた。そのまた十分後に店主の弁護士が、さらにさらに五分後に税理士が遅れて到着、契約の運びとなった。 比済ちあみが持参…

静謐なダークホース 6-1

数時間の睡眠、早朝に起きる。目覚ましはいつも僕が止めていた。ほとんど時計の機能。それならば、壁にかかった時計や端末で用が足りる。引火しそうな火の元に消火器のホースを向けているみたいだ。 昨夜は自宅への長い道のりの休憩に終夜営業のレストランで…

静謐なダークホース 5-9

「もしもの為に、お金は受け取ることにする。私的な流用ができないように、受け取る際の契約を弁護士に頼むつもり、税理士だったかこういった場合は。とにかく、心配は要らない。それにだ、栄養素が詰まった食品ばかりを館山さんだったら食べ続けるだろうか…

静謐なダークホース 5-8

「いいえ、私は彼女のチョコを受け取った側と、渡した側とでの会話のみ。興奮状態であなたが重要視する栄養素の有無や彼女が作ったチョコの形、それに包装紙や箱の特徴は一切、未確認のまま彼女を連れ立って店を後にしたのです。不注意だったのはそちら。強…

静謐なダークホース 5-7

「もう、いいかげんにしてよ。あなたの要求は満たされたじゃないの」着替えを済ませた館山が再度の訪問をきつく咎めた。店主は、視線が離れたのをいいことに吊り戸棚の食材を古いものを前に、倉庫から持ち出したあたらしい物を奥に置き換えた。空の籠は、着…

静謐なダークホース 5-6

「何かに縋るほどに疲弊はしていない。すべてが想像であると理解ができたなら、得体の知れないものを不安視する労力は他へまわせる」 「戻りました」国見が戻ってきた。館山は、店主に仕込みの状況を説明、休憩に入る。もも肉を叩き終えたところで彼女は休憩…

静謐なダークホース 5-5

館山が仕込みを続ける背後を通って、釜、出窓に向かう。それでも、やはりラジオは快適に今度はゲストを紹介していた。 「コンセントなら、店長、ホールの左端の二人用のテーブルの下に一つありますよ」館山が顔を横に向けて言った。手元は地鳴りのよう音と振…

静謐なダークホース 5-4

そういった風景に見とれて、足を進めた先に、ひびの入った壁に入り口を守る黒ずんだ幌とかすかに読めるタカオ無線の店名。記憶は二分の一を勝ち取った。店主は、躊躇うことなくドアを引き開けた。 外観からは想像がつかないほど、店内は明るく、埃っぽさや息…

静謐なダークホース 5-3

「取り立てて特殊な調理法は採用していないし、味に関しても守秘義務は行っていない。それに、僕はあまりしゃべらない、館山さんたちは多少の迷惑を聞いている者に知られるかもしれないが、それほど普段と、仕事における態度に僕は違いを感じていない」 「気…

静謐なダークホース 5-2

「どこであれをつくったの?」 「……自宅です、正確には半分母親に手伝ってもらいました」 「そう、あなたのお母さんが優秀なのね」比済の頬が上がる。「自宅まで案内して。あなたのお母さんに、ご自宅に今いらっしゃる?」比済は彼女の両肩を掴んだ。 「……え…

静謐なダークホース 5-1

「こんにちは、はじめまして、ううっと、ああ、なんだっけ、突然の訪問をお許しください」ドアを潜った人物は見慣れない顔、短めの上着にマフラーは、かなりの軽装。誰だろうか、ぶしつけな質問をこらえて店主が訪問の理由を尋ねた。 拮抗した空気がほどかれ…

静謐なダークホース 4-9

「かなり独断ですね」 比済が店内に戻る。彼女の全身が見える入り口のマットの上で止まった。表情は固い。引きつりも見られるだろうか。 「製造中止をどのタイミングで行うのでしょうか?」 「世間におけるバランス」 「圧倒的なシェアを獲得したら?」 「栄…

静謐なダークホース 4-8

「おっしゃることは重々承知した上での報告です。どうかご決断を!」彼女は回答、合意を迫った。 「……私の権限で、市場に出回る製品の製造中止権も付帯してください」 「一度、消費者の手元に渡ると、回収は困難ですが」あざ笑う彼女。 「出回っていた商品は…

静謐なダークホース 4-7

「帰って」 「要請には従えない、残りを受け取るまでは」傾けた首。彼女は、ケースの一つに手をかけたようだ、厨房からは彼女の手元は隠れている。 「店長さんが、素直に従ってくれない事態は一応想定しておりました。そのための手段でこれをお渡しするのは…

静謐なダークホース 4-6

「先に、他の企業が販売をしてしまう。商品が店頭に並ぶためには一定期間の審査をクリアする必要がある、ときいたことがあります。間に合わないのではないのでしょうか」 彼女は微笑を浮かべる、後ろの二人へそれぞれが持つケースをカウンターテーブルに置く…

静謐なダークホース 4-5

「八分」 「九分」 「八分」 「わかりました。八分で」 店主は、ホールの壁掛け時計で時間を確認した。 「機密情報なのであまり口外はしたくないのですが、他の企業が来月早々にも栄養食品の販売を控えているらしいのです。私どもが手に入れた、あなたがもた…

静謐なダークホース 4-4

「あのチョコ、形、外見は綺麗でした。ああ、わかった、あの手紙か。メッセージがなければ、かなりまともで、食べられたかもしれません」 「それはいえるかも」 「嘘はいけません」 「手には取ったかもしれない」 「譲歩しましたね」 拭いた皿をカウンターの…

静謐なダークホース 4-3

比済ちあみがもたらした情報は、午後のランチ明けまで持ち越される。 「今日も一人立っていましたね、外に」ピザ釜の灰を丁寧に取り除き、足元のバケツへ舞う灰を押さえる。マスクをはずした館山が言う。 「待ちぼうけの人を見張っている人はいる?」店主は…

静謐なダークホース 4-2

「はあははは、へへへ」 「わかりやすくごまかすな」 「あの丸いやつ……っあぐっ」くぐもった小川の声。店主が振り返ると、細長い指、館山の手が小川の口を完全に覆う。館山はおもむろにコックコートの内ポケットを探って、紙を取り出した。太い文字は、「店…

静謐なダークホース 4-1

「昨日の件の説明を私、まだしてもらっていないんですけど?」開店前の厨房。小川が仕込みを縫って、先ほどから問い掛けている。鳥のようにくちばしでつつき、痛みはあまり感じないが、集中は途切れる。 「だから何度も言ってる、ここで話せないって!」眉を…

静謐なダークホース 3-6

「だったら、なおさら引渡しは拒否します」 「……店長、私限界です」小川が沈むようにうずくまった。 「国見さん、音を下げて!」手招きする仕草、店主はレジの国見に伝えた。圧迫感が取り払われ、体の身軽さを体感する。「小川さん、大丈夫?」 「三半規管が…