コンテナガレージ

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自作小説-マーケットキーパー

静謐なダークホース 3-5

最後の一組が帰り、今日の営業が終了する。比済が一度席をはずした理由は、最後に帰った一組が彼女もしくは球体のチョコに特別な関心か、店内のかすかな会話に聞き耳をたてていたのかのどちらかだろう。しかし、栄養素が失われない、というのはどういった仕…

静謐なダークホース 3-4

「三十ミリグラムは金額に換算すると三百万。コンマ一ミリグラム当たり一万円の価値。それほど、食品加工の段階で費用がかさむ物質です。一体これをどこで手に入れたのか、不思議でならない。もちろん、自然界には絶対に存在しません」一人熱弁を振るう。比…

静謐なダークホース 3-3

一枚、ピザの注文が入る。館山の厨房に戻る反応を抑えて、店主が生地を焼いた。お客が会計を済ませ、地下鉄と電車の駅に向かう。ちらつく程度の雪も風で存在感を高めていた。 ピザはどうやら、館山の知り合いが注文したようで、館山が厨房に戻り、直接彼女が…

静謐なダークホース 3-2

「綺麗ですね、あの人」 「そう?」 「店長は、あんまり人のことを褒めませんよね」 「そう?」 「町で見かけた人を目で追ったりしません?普通の人の行動ですよ」 「それってつまり外見で人を判断している、とは受け取られないの?」フライパンを加熱、冷蔵…

静謐なダークホース 3-1

ディナー、活気を帯びる時間帯の午後九時。日常会話が途切れた厨房で食材が焼かれ煮られ、油で揚げられ、ソースを塗られ、盛り付けられ、緑鮮やかな野菜が飾られる。国見がお客を一人、カウンターへ案内。ドア側の区切られた二席の一つにお客は腰をすえる。…

静謐なダークホース 2-10

「手渡すここまでの道のりも当事者のプランの一部さ。夢を描いて、それに従って、歩いてる。僕が包装を受け取って嬉しがるのは誰?当事者だと、僕は思うね」店主は、箱を丁寧に重ねた。「相手の気持ちに配慮が足りない、そう言われるかもしれない。でも、わ…

静謐なダークホース 2-9

「食べることはそんなに必要かな?」 「休憩入ります」 「どうぞ」 「安佐、もう一つは?怪しい待ち人は二人だったでしょう」 「先輩が今度は開けてくださいよ、私ばっかり。見たい気持ちは同じくらいですもんね」 「見たいなんて、一言も言ってない。危険か…

静謐なダークホース 2-8

「薬の注意書きを意識して書いたんでしょうね」店主の手元を覗く館山は、口元に手を当てる。「すいません、勝手に見て」 「いいよ。文章は誰かに見られる前提」 「私に見せてください」爛々と輝かせる瞳で小川が見つめる。店主は向きを変えて紙を渡す。「へ…

静謐なダークホース 2-7

「いいから早く開けなって」館山も箱が見える位置に近寄る。 「えいっつとう、うーん、これって……バレンタインの贈り物?」 上蓋の次に三人を襲ったのは、球状の塊、四つであった。 「惑星を模したチョコレートなら見たことがあるけど」館山は眉間にしわ寄せ…

静謐なダークホース 2-6

「もらうのが嬉しい。自分で買っても味気ないですよ。それがプレゼントの持ち味って言うのか、うーん、本質?ですよ」半ば怒ったようにそれでも口調は柔らかく、尖ったはずの言葉の先端は丸く、面が取れてる。 「店長が食べもてもいいって許可が下りたら、食…

静謐なダークホース 2-5

勘違いをさせる振る舞いは、神に誓い、舌を切り落としても良い、思わせぶりな態度は見せてはいない。僕は一貫して、教室内の人物、教師を含む人間には興味を持った記憶は正確に呼び起こしても見つからない。見つけようがない。 記憶は鮮明、劣化などしない。…

静謐なダークホース 2-4

「あの人たち並んでますよ」見開いた瞳で小川が屋外の怪しげな二人の最新情報を伝えながらも、数箇所黒い焦げ目がついた長方形、紙に包まれたピザを容器に詰める。 数十人分を持って小川が外に運ぶ。多少サイズが小ぶりなために、お客は二つ以上の注文が多い…

静謐なダークホース 2-3

「楽しいですか、一人だけで?」 「二人だったことは、僕にはないよ」 「それは、……どういう意味ですか?」 「言葉どおり。解釈は小川さんに次第」 「意味深。うーん、これゴーのサインかも。だけど、しかし、ううむ。見極めが難しい」 店主はホールに降りて…

静謐なダークホース 2-2

だが、そのデータ収集も先週で終わり。今日はランチメニューに仕込みにあまり時間を割かれないため、早朝通常出勤の二時間前に店に来ることはないのだが、ただの提供ではと思い、店主はいつもの時刻に家を出て、いつものように厨房に立つ。 出窓、かすれた前…

静謐なダークホース 2-1

東京では雪らしい。交通網は遅延の恐れ、警戒と転倒の危険を呼びかける。 地下道を出て見上げた、交差点の大型ビジョンである。 全国ネットのニュースともいえない情報番組。今日の運勢を省けば、詳細な予報が伝えられるのでは、手を振って明日の再会を呼び…

静謐なダークホース 1-6

「クリスマスみたいに単なる一年のうちの一日だって言いませんよね、今回は?」 「どうして?」 「想いを伝える絶好の機会を世間公認で与えられたら、そりゃあ、ねえ、気分も高まりますよ」背伸び、店主は吊戸棚に乾燥のパスタを置き並べる。そしてステンレ…

静謐なダークホース 1-5

「なるほど。それで連絡先が書かれていなかった手紙に大豆拒否の意志が伝わらない、違うか、伝えられなかったので、倉庫の半分が大豆で埋まってしまったんですね」小川がしゃべると、ロッカーの扉が閉まった。 「テレビの取材もあれがきっかけだろうさ」館山…

静謐なダークホース 1-4

「ん?」首を突き出す館山は後ろの縛った髪が体の傾きにより、前面にするりと落ちる。「ドアに、あれ。なんだろう?」ホールと店主の間を切り裂き、館山がモップ片手に走りよってドアを開閉。モップと片腕、半身を店内、水分をふき取るマット上に留めて、ド…

静謐なダークホース 1-3

「国見さんは、どう?」 「ピザは列に並んだお客が黒板を見て、必ず声に出していたので……ああ、もしかして」国見は話のなかで思い出したらしい、首がすぼみ、それから勢いよく定位置に戻る。 「なに?」 「声に出していたということは、少なくとも二人以上で…

静謐なダークホース 1-2

また、逸れたので本筋に戻る。正午からは、一時、白米の独壇場。背広のサラリーマンが多く、他のメニューにはないボリュームが好まれたらしい。そして、最後の一時間は男女年代ともにバラバラ、飛び交う注文はまちまち。 お客の視線は時に駅前通り、開店パー…

静謐なダークホース 1-1

「そこからがクライマックス。途中で止めるとは何事ですか」小川安佐が怒りを表す。 「先輩、私はあんたより年もキャリアも上なの」 「店に入った時期は一緒です、だから同期ですよ。もう教えてくれてもいいじゃないですか」 「月日は流れた」 「詩人ですね…

抑え方と取られ方 5-5

「国見さん、大卒ですか?」 「一応ね、地方大学だけど。仕事に培われない学問をそれなりの施設で肩書きを手にしただけ」 「そんなもんですかね。おっと、安佐から。なんだろう。もしもし。うん、もうすぐ。えっ?そうなんだ。ふうん。知らない、だって取材…

抑え方と取られ方 5-4

十分を過ぎて、鶏を焼く。ご飯が炊き上がった。慌ただしく厨房に音が交錯する。まるで都市部の交差点。 弱火で火加減を見ながら、ひとまず鶏をしばらく放置、とうもろこし粉で包む中の具材に取り掛かる。 トマトを湯剥き。昨日整形したハンバーグ用のひき肉…

抑え方と取られ方 5-3

前日に冷蔵庫へ移した解凍済みの鶏肉の量を確かめる。ネックは鶏の数量だ。鶏は白米とあわせる。白米は有美野アリサが大量の持ち込み、使用料に制限はほぼないといっていいだろう。鶏もあるにはあるが、冷凍庫でカチコチ。急激な解凍は肉を固くするため、限…

抑え方と取られ方 5-2

思案。立ち止まり、腰に手を当てる。 作業を抽象化する。何をしているのだろうか、根本を探す。 火を入れる。豆を茹で上げる行為は、水分を含んだ豆を加熱すること。 ……オーブンと釜だ。 水分を含ませつつ、通常の半分の湯で時間に大豆を上げたら、きっちり…

抑え方と取られ方 4-9 5-1

「おはようございますぅ」天候は回復、しかし気温は低下。放射冷却。国見蘭は、通路に立つ小麦論者の彼女へ会釈、カウンターに付近の有美野に苦笑いと会釈、数歩進んでホールの灰賀へはきっちりと頭を下げた。彼を彼女は覚えているようだ。店主には、状況を…

抑え方と取られ方 4-8

「他のお二人はいかかですか?」 「問題ない」マスクをしたままで灰賀が言う。「私には失うものはありません。メニューには載っていませんでしたから、ランチで好評を博したメニューはディナーでも提供される、そう窺いました。今回の場合はどうでしょうかね…

抑え方と取られ方 4-7

「出品にはリスクが伴う。お米はその価格、小麦はアレルギー、大豆は価格とアレルギー、とうもろこしは知名度の低さ。お米は高騰によって使用を断念、小麦はお米から小麦への主食の乗り換えによる摂取量の増大が要因のアレルギー症状を誘発、同じく大豆は前…

抑え方と取られ方 4-6

「は?店長、今なんて?」 「独り言。きかなかったことに」店長は、サロンを締め直す。「着替えて、準備を始めて」 「は、はあ」腑に落ちない店長の態度に驚いてから、伝言を思い出す。「ああ、あとですね。安佐から伝言で病院でウィルスの減少が検査で確認…

抑え方と取られ方 4-5

店主に言いかける彼女よりコンマ数秒早く男がしゃべる。「多糖類を単糖類へ変える酵素がこのとうもろこしから発見された。複雑な分子構造の多糖類を吸収の容易い単糖類に変化、体内への吸収に寄与。さらに、副次的な恩恵にもあずかった。たんぱく質の吸収を…