コンテナガレージ

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自作小説-五月二十日は鉄板を以って制す

今日は何の日?2-1

先週から今日にかけて消印のない手紙が合計で十二通、店に届いた。 内容は豆をランチに使え、今日は豆の日だ、豆をどうにかランチで使って、豆はおいしいよね、豆は最高、豆をもっとというもの。そのほか、紐の日、豆の日、アサリの日と書かれ、豆の日にだけ…

今日は何の日?1-4

「はい。さらに彼女は日焼けを危惧していた。私は音楽については一言も触れていなかった。彼女は知っています。何か情報を握っているでしょうね」 「引き返す?」 「流れに乗ってみましょう」 「泳がされるってこと?」 「この時間、不動産屋はまだ開いてい…

今日は何の日?1-3

「川上謙二という人をご存知ですか?」種田がタイミングをずらして柏木が心を開き始めた場面でもっとも訊きたい質問をぶつけた。しかし、相手はまったく動じない。二つの可能性、名前に聞き覚えがないか、名前は知らなくとも顔は知っているか。確かめる。「…

今日は何の日?1-2

「だけど、大目に見てはくれるはずだ」 「リスクは避けるべきです」 「僕らの部署が解体するって言うの?」 「いつかは」ナビがルートを音声案内。鈴木は国道をそれる。S市の外れT地区を南下、海岸線に向かい、一本目の幹線道路で右折、セルフのガソリンスタ…

今日は何の日?1-1

川上謙二の死亡が世間に公表されて十日。不審な死を遂げた川上謙二の死因は解剖の結果、胸を圧迫された窒息死と判明した。情報が遅れたのは、種田と鈴木がO署の刑事だったため。当然に、管轄担当の警察が事件を調べる捜査権を持つが、複雑に絡み合う諸要因が…

ガレットの日8-3

タバコを吸った。国見をよけて煙を吐く。「疑ってはいないよ。真実の発言だけ、僕は現場にいなかった、行動を予測するデータも揃っていない。不確かな想像は無意味だ」 「館山さんと安佐はそうは思っていません、私になにも言いませんでした。とくに館山さん…

ガレットの日8-2

「数時間のタイムラグが毎日起こり得たら、僕は指摘を余儀なくされる。ただ、国見さんにそういった一面がこれまでの付き合いで散見されたのたのは今日が初めてだった。考えるに、それは不測の事態であり、今後の発生は万に一つ、起こりえないのだろう」店長…

ガレットの日8-1

「蘭さん、どこでこんな時間まで油売ってたんですか、もうてんやわんやですよ」レジのお客を送り出した小川安佐はものすごい剣幕で、いつもとは正反対の立場。 国見蘭は抑えた音量で言う。彼女の髪の毛は濡れていた。 「ごめん、ついうとうとね、喫茶店で」…

ガレットの日7-5

「そういうお前はお子様みたいにハンバーグなんか食べて」 「ハンバーグがお子様という認識は、うがった見方だ」 「また講釈が始まったよ、耳をふさげー」 「大人でも食べるからだろう?」 「いいや、大人が食べさせているから。子どもが好きそうなものとし…

ガレットの日7-4

ただ、たしかに遅いということは気になった。だが、それでも彼女には一定の権限を与えている。国見蘭はホールの責任者である、店長は止むに止まれない事情が発生したと一応の目安を携えた。 忘れ、調理に没頭し、ピザ釜の内部を覗き、持ち場に戻り、時には自…

ガレットの日7-3

「店長、無理ですって、料理を運んで食器をさげていたら、お客さんから呼ばれたらテーブルに注文を聞きにいけませんって」 「できるだけ一人で対応できるように担当を変更する。館山さんと君の持ち場を代える」 「私がピザを焼くんですか?」 「できない?」…

ガレットの日7-2

「大丈夫ですよ、手数料の問題は。月に決まった回数、手数料が無料の引き出しまでしか使いませんからね、私は」はははっつと大げさ、中小企業の社長を思わせる快活な笑い、小川はお腹を叩いた。正確には胃がぶら下がる位置である。「そういえば、蘭さんはま…

ガレットの日7-1

店を開けるため店長自らが、ドアに掲げたクローズのプレートをひっくり返す。ランチ時、正面ビル、右手の電柱に立っていた人物は消えていた。 待てよ、店長は思い出す。 見かけたのはフランス料理を敬愛する人物ではなかったように思う。まったくの別人。以…

ガレットの日6-4

「そう、それです。あれっ?刑事さんが知ってるってことは、有名な団体なのか、うん?」こめかみに指をあてて時代錯誤の仕草。 「いいえ。川上謙二の周辺で見かけた奇妙な名称です。彼が団体との関わりを持っていた、そう匂わせる程度。彼の死亡でクローズア…

ガレットの日6-3

小川は左に曲がった。肩に下げた茶色のショルダーバッグがひとりでに動いた。小川の姿を、歩道橋で視認。種田は、見上げて、階段を駆け上がる。息も上がる。揺れる橋、弾む呼吸。川を跨ぐ橋だ。景色に見とれている暇はない。三車線の道路、片方ずつあわせて…

ガレットの日6-2

「無視かぁ」 「いいえ、聞こえてます」 「だったら返事ぐらいしてくれよ、一人ごとをしゃべってるおかしい奴だと思われる」 「独り言は二人では話せない。よって、おかしく思われることが前提になります」 「屁理屈ばっかり言って。言葉の綾だろう?」 「で…

ガレットの日6-1

鈴木は、書店ビルの出入り口の灰皿を目ざとく見つける。彼に従って種田は煙の吸引時間に付き合った。あまり好ましい環境とはいえないが、国見の証言をまとめるために歩行を避けられた良かった。沈黙、視界もある程度遮断して彼女は息を潜めるように外界と拒…

ガレットの日5-6

しゃべりすぎただろうか、自分でも気がつかなかったが、店長についての問いかけに溢れるように言葉が出てしまう。控えよう。どうしてだ?国見は温くなったコーヒーを傾けて、飲み干した。本と伝票を掴めば、帰る意思が伝わる。 「焼きそば協会に彼は属してい…

ガレットの日5-5

時計を見て、国見は応える。「会場の視察に行った時に、偶然川上さんと会いました。通りかかったようでしたね、あっちは。私たちは取引先のパン屋からの正確な時間を計って、会場に着いたばかり。その後、休憩を挟んで帰る時に、会場へ入る車が一度、行き過…

ガレットの日5-4

「応えれば、教えてくれますね?」国見は攻撃に転じた、既に相手は私の態度で補う言葉を待つばかりだ。国見は臨機応変に態度を変える、彼らには守秘義務がある。意味もなく店長に私の想いを伝えることはないだろう。 「ええ、もちろん、そのつもりです」切れ…

ガレットの日5-3

「殺人の参考人聴取が目的ではありません」私の考えが読まれている、国見はきゅっと背筋を伸ばした。席に着く前に店員に種田がコーヒーを注文している。 店内を見渡し見ると、国見たち以外はいない。貸切状態である。刑事の音声は抑え目に、アクセルワークの…

ガレットの日5-2

一冊、目当ての物が置いていない、レジで聞くと売り切れていたようだ。アメリカのレースで日本人が優勝した影響だろう、普段購買を控える人が買ったのか、仕方ない。国見はエスカレーターで二階に上がり、隅に追いやられた出入りの少ない即席、大学生が催す…

ガレットの日5-1

週明けの月曜、午後三時三十三分。揃った文字。アナログ時計でこの時間に気を使う人物はほとんどない、心配性または幸運という幻想を抱いている人たちは意識したその時間帯を無意識に忘れ去って、さも初対面を装って上昇と下降に気分を這わせる。 ランチの終…

ガレットの日4-2

田所のあれはハッタリだったのか、無駄足を踏んだように思えた今日の遠出、ただ、口からでまかせを言ってしまった、そういった雰囲気とは思えない。怒りに任せた表現も、本心がポロリと口をついた、ということが第一の印象で、可能性としてわざと私を東京へ…

ガレットの日4-1

自称フランス料理推進促進協会の田所誠二は、店長に引き抜きを持ちかけ、店内を眺めた数分後にカウンターの千円札を回収し、店を去った。 後日ハンバーガー用のパンを受け取りに行った小川が、田所誠二と真柴ルイの二人組みがブーランルージュにも姿を見せた…

ガレットの日3-5

「あなたを引き抜きたい。この店ごとの移転を私どもは希望する」通路の男性はホールに移動して、後ろ手にテーブルの間をゆっくり歩き回る。声は遠ざかり、また近づく。店内のBGMは切っているため、男性の声はかろうじて壁の付近でも音声は聞き取れた。釜の内…

ガレットの日3-4

「心底、腹の立つ言い方だな」男性は頑として動かない。 「あなたがもう一人の女性の事実上の上司ですか。腹話術の反対」何を言っているのだろう、腹話術、事実上の上司?館山は釜を盗み見て、視線を二人に戻す。 「間柄の推理、良くできました」男性は手を…

ガレットの日3-3

館山が手招きするように中に男性を呼び入れた、ベルが鳴る。 「私にも、一ついただけませんか、数メートル先で何時間も立ってるのは拷問。食べてみたくなりまして、御代はもちろん払います」 「列に並んでください。特別扱いはできません」店長は一瞬だけ上…

ガレットの日3-2

「会社員と制服姿の女性が多いですよね、うちの店に来るお客は。つまり、一定の範囲内で昼食や夕食を食べる人たちが多いという判断だった」館山は店長の意見をまねる、トレース、沿うようにきいた。 「同じ時間に同じ場所、しかもメニューは毎日変わる、それ…

ガレットの日3-1

ランチの盛況ぶりは,、好調な発進で予見された。目につきやすい店の真正面にフランス料理推進普及協会の田所が電信柱と同化したみたいにまっすぐ垂直に佇んでいる。以前に店長に対して異常な関心を抱いた人物がバレンタインの時期に出現していたことを思い出…