コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

自作小説-解決は空力で

水中では動きが鈍る 2-2

相田にとってはわざとらしく馬鹿にされるよりもきつい仕打ちである。「バカ、違う、勘違いするな」種田が後部座席を振り向くと冷ややかな目で相田を見据えた。蛇に睨まれた蛙である。視線は5秒ほどで正面に直る。鈴木の頭が相田によって叩かれる。 「いたっ…

水中では動きが鈍る 2-1

「第三の被害者の身元を調べるほかにも、こなすべき仕事はあります」 「だから?死んだ者はもう生き返らない。しかし、これから殺される者は生きている。死体から見えてきたのは殺され方と死んだ事実のみだ。だったら、犯人と思わしき者に張り付いて犯行の間…

水中では動きが鈍る 1-7

「……なんでもありません。もう大丈夫ですから」言葉の後半はきりりとしたいつもの種田の口調である。気を使わせないためだろうか、喫煙室を出た熊田に続いて種田も部署へと戻った。 「あんまり、根を詰めるとあとが大変だからな」そう言うと、相田はどかっと…

水中では動きが鈍る 1-6

犯行自体が演出で、取り調べも行員たちの演技。 騙されたのは最初からか。 お金はどこへ消えた? 銀行内からは一度持ちだされて、近くの安全なしかも調べの付かない場所に保管され、警察の撤収で回収。 「もう一度聞きますが、銀行強盗と殺人の結びつきは何…

水中では動きが鈍る 1-5

「その説明だと犯人は銀行全体となってしまいます……」そう言ってから種田は言葉の続きを想像する、紙幣が移されていないのは移動したと見せかけるとの洞察ができあがる。 「銀行員が強盗をはたらかないと誰が決めた?警察官や刑事、役所の職員や議員、会社員…

水中では動きが鈍る 1-4

「参ったな。誰にも言うよな」一度種田を見て、視線を逸らしまた、元に戻してから言った。 「今まで私が誰かに話した事実があったでしょうか?」じっと真っ直ぐな種田の眼差し。 「ない。もっとも会話の頻度が少ないだけだがな」 「それがなにか?」「 「い…

水中では動きが鈍る 1-3

種田は喫煙室へと足を向けた。 「熊田さん」窓辺に立ち、なんともなく二階から下界を見下ろしている熊田に声をかける。タバコの煙をまとった熊田が振り向く。佐田あさ美の通報で駆けつけた警官は一人でしたよね?」 「ああ」振り向いた顔はすぐに元に戻され…

水中では動きが鈍る 1-2

「はあ。三人目の被害者の身元は判明しました?時間からしてそろそろかなと思いましてね」 「女性、推定年齢は20代から30代。身長は160センチ。出産、妊娠はしていない。歯の治療痕から、発見された現場付近の歯医者を調べさせているが、殺害場所が不特定だ…

水中では動きが鈍る 1-1

早足で歩き駐車場を横断。エンジンを掛けるのかと思いきや種田が乗り込んでも運転席の熊田は火のついていないタバコを咥えたままフロントガラスとにらめっこ。日井田美弥都とのやり取りから何かを掴んだのは不自然な行動から窺えた。両手でハンドルを抱え込…

重いと外に引っ張られる 5-4

「と、言うわけです」のびた麺に琥珀のスープ。食べ急ぐ繁盛店ならではの後続への配慮もいらない。あんな狭い空間で早く食べろと急かさせて食べるのはどうも味を求めてまで並ぶ意味が無いように感じる。相田はとっくに食べ終わり、タバコを吸っていた。鈴木…

重いと外に引っ張られる 5-3

「娘さんの捜索願を出していますね、発見された日の翌日に」 「娘が帰ってこないことなんて今までなかったの。親が子供の心配をして当然でしょう、なにがいけないのよ」 「変ですよね」鈴木はわざと、間をとって先を急ごうとしない。相手がじれるのを待って…

重いと外に引っ張られる 5-2

「お前、給料何に使ってる?」 「へ?なんだろう、そんなに高額な買い物はしませんから、それにカードもめったに使いませんし」 「貯金なんかしてないよな?」 「してますよ、そりゃあ、このご時世ですからね、公務員と言えども絶対はないですから」 「いつ…

重いと外に引っ張られる 5-1

「そういえば相田さん、銀行強盗の捜査にも駆り出されていましたよね?」 「結局は人員が余って監視カメラを見直しだけ。まぁ、デスクで暇しているよりかはマシだったけどな」 「で、どうでした?なんか僕、見落としてたとこありました?」鈴木はラーメンを…

重いと外に引っ張られる 4-4

「どこが論理的……」 「魔とは何でしょうか?心の隙間。あるいは、日頃の勤務態度がきちっとしてかつ警察という無性に近い奉仕も残業に含まれた。仕事だと理解しても定年までの全うが困難な職種です。私生活でイベントなり、付き合い、デート、趣味の時間、家…

重いと外に引っ張られる 4-3

美弥都はエプロンで手を拭く時間に考えをまとめたようだ。「……わかりました。これから10分で私に仕事が発生しないか、店長が戻ってこないかの両方が満たされれば、お話を聞きます。ですが、急な仕事ができたらそこでお話は終了とします。よろしいですか?」 …

重いと外に引っ張られる 4-2

三件の事件(ここでは銀行強盗は考えないこととする)はどれも女性が被害者である。それも独身の女性である。殺害場所と遺体の発見現場はおそらくは異なる場所であると推測された。第一の事件での被害者及び遺体周辺の血液量と致命傷となった際の致死量の血…

重いと外に引っ張られる 4-1

駐車場はいつものごとく閑散として、囲いのブロック塀に猫が警戒の眼差しで数メートルの距離からこちらを伺っていた。石造りの建物に二人は足を踏み入れた。喫茶店の経営状態を図る指標は熊田は持ちあわせてはいないが、この店は繁盛しているのだとは理解で…

重いと外に引っ張られる 3-6

佐田あさ美への容疑は今のところは黒からグレーへの変化具合で真っ白とまでは行かないのが現状。熊田は、じっと考え込んでいた。隣後方斜めを歩き、ついてくる種田が速度の一定で遅い熊田の歩きに文句も言わないで、はりついていた。エレベーターを待つ間も…

重いと外に引っ張られる 3-5

「会社に知れたら自分が取材の対象者になりかねないし、再び妹にもつらい思いをさせるかもしれない、だからまたま現場を訪れたと嘘をついた。そうですね?」佐田あさ美は静かに首を縦に振る。「あなたの会社ではゴシップ誌のような雑誌も扱っているのですか…

重いと外に引っ張られる 3-4

「確かめたい?」 「残ったのは、私、ここにいる種田、最初に駆けつけた警官と次に来た鈴木という刑事の4人です。私が乗ってきた車の運転席にカメラを仕掛けました。鑑識から借りたものです。運転席のハンドルとフロントガラスの間です、前方が映る場所に設…

重いと外に引っ張られる 3-3

「お前は礼儀正しいのか行儀が悪いのかわからん」 「まずお前ではなくて、種田です。それに、礼儀とは形によって心が伴うのだとすれば、礼儀の学び始めにはただ教えられたように体を動かしているに過ぎない。だとしたら、相手を敬うなどの感情は持ち合わせて…

重いと外に引っ張られる 3-2

「そんなぁ、……でも重田さちの周辺には特に親しく付き合っている人物はいなかったと思いますけどね」 「お腹の子供の父親は特定できなったのか?」熊田が聞いた。 「携帯の電話帳、通話履歴にも職場の人間と両親の番号しか最近の通話記録は残っていません。…

重いと外に引っ張られる 3-1

捜査会議は翌日早朝からも行われて、主に鑑識からの追加報告の伝達だけでその他には捜査員からの報告は上がって来なかった。会議の終わりが、今日の捜査の始まり合図といったほうが正確だろう。会議は埋め合わせのお飾りであってもなくても良かったのである…

重いと外に引っ張られる 2-7

窮屈な充満する人間同士の圧力のぶつかり合いが、まばらとなった会議室でもまだ残留の粒子が浮遊。会議の意義は果たしてあったのかとは誰も口が裂けても言わないは、管理監がただ一手に情報を握りあくまでも指示はこちらが出しているのだと知らしてめている…

重いと外に引っ張られる 2-6

「はい」種田が手を上げた。ペンで今度は種田が指されるとすっと音もなく立ちがある。「重田さちは、発見の前日の午後9時に勤め先の塾で授業を終えた後、午後10前後に同僚と共に学習塾を出ています。自宅は、S市で通勤は電車です。被害者の駅まで歩く姿を同…

重いと外に引っ張られる 2-5

一件目の事件、早手亜矢子の母親、早手美咲が遺体の発見時刻近辺で最寄りのインターの通過したのは果たして事件との関連を促す事実かどうかの是非を威嚇をもった視線で捜査本部のお偉いさんが一同、捜査員を見回す。しかし、確実な解答なしにむやみにその視…

重いと外に引っ張られる 2-4

熊田が早々と退出した。そういえば、タバコを吸わずじまいであった。 相田はブース内でまた一人となる。しばらく、時間にして数分。今度は鈴木が姿を見せた。こっちは本当に疲れている様子で頬は少しコケた感じが見える。「おつかれ」 「ああ、どうも、お疲…

重いと外に引っ張られる 2-3

「さあて、そろそろ行くかな。じゃあ、今のうちにゆっくりと寝ておけ。どうせ直ぐに仕事が舞い込んでくるから」ポンポンと鈴木の肩を叩いて部長はそそくさと消えてしまった。 嵐のように去った部長である。寝ぼけがまだ残っている相田である。肘をついてぼん…

重いと外に引っ張られる 2-2

「部長がいないのは当たり前ですから、もう慣れました。けれど一応はこの班の長なのですから何もしなくても姿くらいは見せないと……」仕事に対して自分の考えがやけに優等生のそのものであると相田自身は思っていた。口に出し、言葉として選んでみると意外と…

重いと外に引っ張られる 2-1

銀行内を監視する映像のチェックが終わり次第、通常業務に戻れとのお達しが下り、銀行内の証拠採取の終了とともに相田も署に帰ることにした。抱えている事件もなく、現在は要するに暇である。車の運転も事件を抱えている時はずっと頭の隅から仕事が離れずに…