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自作小説-WとG

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 7

放送中止の訴えは結局、終了まで聞き入れられなかった。三月いっぱいを契約満期とするも、事実上数週間前には次に控えた新車との兼ね合いで宣伝を休む。押しかけた彼らは契約違反を強く訴える、放送そのものを即刻電波から引き下げろ、と穏やかとは対極のブ…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 6

考察にあてがう豊富な時を与える。 喫煙所で独り彼女は分泌物、消化液、水分と多用な名称を持つタバコにやっと火をつけた。上着を脱いだ社員と空間を共有した、「単独」という意味の独りである。 喉が渇いた。慣れないことは体が反復を許すまで異常なのかも…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 6

「不可変な資本はなるべく少量に収め投入をしたい、利潤率の高まりを期待できるから。まっとうな理由です。生産費用に対する利潤の割合は可変的な資本が一定であると見なした場合、利益の値を低めるのは不可変な資本の量。キクラさんが主張をする工場での生…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 6

高層ビルの入り口前に備え付けるであろう頑丈に地面とボルトで繋がるベンチを落ち合う場所に指定した。アイラ・クズミは一人公共交通機関を乗り継いだいつもの移動手段でもってタクシー移動のカワニと合流する、彼は三分ほど彼女が腰を据えて片手を振って息…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 5

「十秒前でーす」放送がはじまる。「手首の痛み止めに頭痛薬を服用した、違いますか?」熊田は山本西條に尋ねた。 目線が種田たちへ送られた。瞳に熱がこもる、赤。オレンジに傾く、朱色だ。笑っているようで泣いている、単純に置き換えられた喜怒哀楽の代表…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 5

「えー、訊いていただきましたのは、来月発売、移籍第一弾シングル"アレグロ"でしたっ」 カフを下げる。放送に乗る音声を切り替るスイッチだ、種田は山本西條の手元を注視する。痛々しいほどの包帯、指先はどうやら動くらしい。使ったということではなく、押…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 4

もう帰ってこないかも、キクラの言葉は二人に追い討ちをかけ、現在に途方にくれる、というありさまが二人の仲たがいを誘発した。なお、早朝便の鼾による睡眠妨害も多分に土台を形成したことは確からしい、移動距離の長さとその出発時刻の早さに睡眠は理に適…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 4

「僕にばっかり当たらないでください。相田さんも共犯ですよ。同罪です」「情状酌量はつく。行きの機内の惨状はそれはそれは悲惨だった」「昔話みたいな導入部で誤魔化せませんよ。どうすんです?手がかり、すり抜けちゃいましたよぉ」「お前も考えろよ」「…

消灯後一時間 ハイグレードエコノミーフロア

沈み込む座席の振動が伝わった。 インターバルを挟むアイラの噛み砕いた言葉が続く。「だが、価値は以前のあなたによって作られた、継続性という不透明な生き物が背後でひっそり支えていた事実、これが如実に浮き彫りになる。流行や目にする機会の多さ、とい…

消灯後一時間 ハイグレードエコノミーフロア

悠長だ。直ちに伝えればいいはずが、手をこまねいて足踏み。アイラは新曲について考えようとした。けれど、あと少しだけ猶予を与える、彼女は気まぐれな心理を、不安定な上空を言い訳に庇う。 締めた窓のつまみを押し上げる、アイラは真っ暗な空に問いかける…

消灯後一時間 ハイグレードエコノミーフロア 

誰かが隣に座れる。 アイラ・クズミは窓際を選び、毛布に包まり頭にはパーカーのフードをかぶる。変装とは無縁の彼女だ、普段の生活でもマスクや帽子は身につけずに日常生活を送る。知名度の高さに比して反比例の下降線を描くメディアへの登場回数を、彼女は…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 3 駐車場

「席を代わった、ということはありませんでしたか?」「何のためよ?」山本西條が聞き返す。「ハイグレードエコノミーフロアへ移動するためです」「一体何回空港で搭乗から演奏までを繰り返し言わされたと思ってます?これってようは、その間に人が殺された…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 3 駐車場

「十分後に本番ですから、五分が限界ですよ」喉をこちらもわざと鳴らして差し入れの饅頭を詰め込んだ、十二個入りの豆大福が二つ行方をくらます楕円、木製の黄土色のテーブル。「構いません。ご一緒しても?」、と熊田。やはりどことなく腰が低い。「どうぞ…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 3 駐車場

「十分とはいえない聴取だった」「では、心残りがあるとでも。私にはそうは思えません」「うん。だろうな」「はっきりとおっしゃってください」「強気だな」「いつもです」「あの三人、miyako、山本西條、君村ありさはアイラ・クズミのファン以外でそれも別…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 3 駐車場

「鈴木と相田は待機」「ようやく眠れる」「もう、また留守番ですか、僕ら」「休息は必要だ」「それ、熊田さんの言葉じゃないですかぁ」「頼んだ」「もう、僕タバコ吸いますからね」「誰に断ってんだよ」「僕にですよ」「車回してきます。相田さん、キーを」…

就寝前 消灯 ハイグレードエコノミーフロア

そのあと、発言までに数分を要した。こちらの機 能が回復することと、相手の心象を加味したのである。私らしからぬ配慮。前の座席にアイラはしゃべりかけた。声のかかりを確かめるような出だしがすぐに平常の滑らかさに戻る。会話を二日以上忘れた時のいつも…

就寝前 消灯 ハイグレードエコノミーフロア

座席がたわむ、隣のmiyakoが動いた。筒を成した音の塊、声が顔に届いた。切迫した青い音。「このとおり!」風が巻き起こる、そよ風。半身のmiyakoが使用権をめぐる戦いの中央の肘掛に額を近づけてる。「何でもいい、この世界で生きたいんだ!歌しかありえな…

就寝前 消灯 ハイグレードエコノミーフロア 

「隣の席、空いてる?」同様の文言は数時間前に聞いたばかり。アイラ・クズミは薄暗い通路に首を振った。「関係者以外の立ち入りは禁じられてる」「左に寄って、それとも私が乗り越えて飛び乗ってもいいんだよ」図々しさ、生来備わった能力に違いない。私心…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  2 ~小説は大人の読み物~

種田たちはスタジオを離れた。得られた情報はアイラ・クズミはスタジオビルには現在おらず、一時間ほど前にこの場を立ち去った、さらにここへ戻る可能性はキクラ曰く、お勧めできない待機プランであるとのこと。仕上げた仕事のチェックに戻るはずも連絡先を…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  2 ~小説は大人の読み物~

「居場所は見当がついてます」種田は口を開いた。C空港に合流した朝の挨拶から数時間後の、自発的な彼女の発言だった。警視庁から名簿を借りたのは鈴木であり、後輩の種田は性別によって交渉の場からはずされた、当人にとっては本望である。不愉快にゆがむ…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  2 ~小説は大人の読み物~

物事を一言で言い表すと、不条理の連続、といえる。「言う」という言葉を四度用いてようやく言えた。ここでもう六回、登場したか。一旦、種田たちO署の面々は北海道に帰還した。謹慎期間が解除された初日に部署を敵視してやまない一人の女性事務所員がもぬ…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  1 ~小説は大人の読み物~

空気を切り裂かれた。端末を取りに戻るキクラがたこ焼きを二つ、幅広の口角内に大胆に放り込み、退出した。彼が「忘れ物」、と言葉を発したのだ。晴れ間、雲が切れる。室内の天井にやや功名が差し込んだ。よどんだ空気がドアをめがけて抜け去った。 カワニの…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  1 ~小説は大人の読み物~

「話題をさらわれる危険性が高い。そのような判断が議題に上がらず観測を逃した、ということ」「そうでもありませんよ」たこ焼きを一度アイラを見て、カワニは一口で口に収める。案の定、苦悶の表情を浮かべる、涙もうっすら目じりに溜まった。「っふう、あ…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  1 ~小説は大人の読み物~

カワニの分も淹れた。彼はキクラの作業台を覗き込んで天を仰ぐ。片手にまとめた荷物、空いた片方で額のに熱を測った。手のひらも体温である、内部温度の基準をなぜ頭部が担うのか、脳が収納される部位であるからか、アイラは額の熱については特に考えたこと…

追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上  1 ~小説は大人の読み物~

「完成品を作り直したですって?」 二日間のあらましを数分前レコーディングスタジオに顔を出したカワニに打ち明けた。マネージャー業務は遠征に出た一週間の長旅を目処に、帯同したメンバーへ休暇を与えることで彼も休日を手に入れていた。強制的に休ませた…

二回目公演終了後 ハイグレードエコノミーフロア 飛行機・機内・入れ替わり

「……もしも」田丸は言葉を体内で反芻、確かめて伝えた。「アイラさんのように私たち客室乗務員がお客様の顔、今日搭乗された方々の顔を覚えていたとしたら、その、入れ替わったお客様を見つけられかも」つまり、客席の乗客が殺され死体に姿を変えられた。代…

二回目公演終了後 ハイグレードエコノミーフロア 飛行機・機内・死亡

演奏終了を聞きつけるコックピット離れた機長を交え、協議の場がもたれた。 結論は「航行継続」に話がまとまった。アメリカに到着後、司法解剖と乗客の聴取は当局に一任する。一部、アメリカと日本の警察機構の違いついて不安の声があがった。とはいえ、日本…

5 都内・レコーディングスタジオ ~小説は大人の読み物~

~小説は大人の読み物~ 廊下、エレベーターとは逆側の突き当たり。この真下が入り口側。曇りガラスの窓の一枚隔てた向こうは、外の細い路地に面するのか、種田は喫煙室前に座った君村ありさと熊田の会話に耳を傾けた。椅子は二脚のみ、よって部下の二人は必…

5 ~小説は大人の読み物~

「この路地をまあっすぐ行くと見えてきそうな予感がちらほら、ひれはら、ふるひれ、エイヒレ」鈴木は一人陽気にハンドルを握る。相田はすっかり寝入ってる、乗車してまもなくだったか、起きていたのは運転手を除く二名。しかし、会話という会話、場を繋ぐ意…

4 ~小説は大人の読み物~

「そういうことですか」「どういうことです。違います、訂正してください」「若いなぁ」「あなたよりは」 膨らみきった風船は押さえていた指先の意志があきらめる、空気の挿入口が解き放たれてる。山本西條は言う。「手首はじん帯の損傷が疑われてました、幸…