コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

解決は空力で

重いと外に引っ張られる 1-14

「なにか、わかりましたか?」彼女に雑談のための余裕はないらしい。常に仕事を絡めた発言しかないのだ。 「車に乗っていないのは確かだ」鈴木は二重玄関の引き戸を閉めて熊田のもとに駆け寄る。「この車も今日は使っていません。それに、残り五軒の家の車も…

重いと外に引っ張られる 1-13

「……」熊田はタバコを取るだけなのに嫌に手間取っている。ドアを開けて腰をかがめていた時間が長すぎた。怪しい行動は続き、ドアを閉めると車のロックもかけた。鈴木は捜査の途中で駐車された警察の車両を盗んだ事例など聞いたことがない。まして、この人気…

重いと外に引っ張られる 1-12

「……そうですか。この場に残ってたのは別のアプローチから現場と事件を確認するためです」細めた目を熊田にぶつける。解凍直後は一段と機械的な話し方である。 「事件じゃないっていうのかい?」 「いいえ。事件ですがすでに私達が接見した事象はもしかした…

重いと外に引っ張られる 1-11

「あの、ちょっと?」警官が機能停止した種田に心配の声をかけるが熊田がそれを制する。 「構うな、いつものことだ。すぐに帰ってくる」種田はたまにこうして充電が切れたように彼女の時が止まる。過剰放出によるエネルギーの消費を遮断し外部との接続を断絶…

重いと外に引っ張られる 1-10

熊田と種田がサイドミラーに映る。熊田のシビックで待機していた二人が鈴木の車に接近。 「出てこい、仕事だ」窓をこんこんと叩いて鈴木が窓を下げると熊田が低い声で言った。怒っていると初めて会った者は思うがこれが熊田の普通の状態である。 「鑑識のか…

重いと外に引っ張られる 1-9

「かなり、粘性は高いです。顔や頭、肩に付着していたとすれば歩行時に地面に落下しているはずですが、トンネル内の両側で入り口にはそれらしき痕はみあたりません」早足で奥の出口まで走り、前かがみで下を観察し、入り口の方もまじまじと地面を見ると種田…

重いと外に引っ張られる 1-8

「そっちの肩を持て。上に上げるぞ」黒い液体が薄れた箇所を持ち仰向けになった死体の肩を鈴木が腰あたりを熊田が持ち、ぐっと地面との空間を開ける。 死体の背中も体の前面同様に黒く汚れていた。覗きこんで背面からお尻を観察すると、目配せでゆっくりと死…

重いと外に引っ張られる 1-7

それから、20分後に熊田のシビックが鈴木の車の後ろに停車。熊田たちが到着するまでに車は一台もこの道を通過していない。 「お疲れ様です」駆け寄る鈴木。熊田は日差しを暑そうに遮るように額に手のひらを当てて、苦い顔をした。 「現状は?」 「おそらくは…

重いと外に引っ張られる 1-6

「……じゃあ、あなたから理由を説明してよ。私からだけでは納得しないの」彼女は四栄出版社に務める会社員で取材先から帰社する途中に立ち寄った道で死体を発見したというのだ。国道から外れたこの道を通過するのは、道沿いの住人だけだろうとはじめてこの道…

重いと外に引っ張られる 1-5

「とりあえず、我々だけでは手に負えないので応援を呼んで下さい。それと人が入れないように現場保存もお願いします」動転した警官を落ち着けるためにゆっくりと選んだ言葉で話した。警官はやっと自分の責務を思い出し、熱のこもった返事。 「わかりました」…

重いと外に引っ張られる 1-4

Z町からO市市街地に向かい車で数分、小学校を左手に道なりの右カーブから左手に進む脇道が伸びている。道の脇には生い茂った草木と所々に佇む一軒家。しばらく進むと更に二手に分かれる道。右手に曲がるとおそらくは引き返す方角に進路を取る。その右手を更…

重いと外に引っ張られる 1-3

なんでこんなことを考えているかと、タバコを吸いながらふと我に返って、魅力について連想したのだと思い返す。コーヒーが目の前に置かれる。カウンターをぐるりと回って鈴木の脇から差し出された。同時に香ばしい匂いのトーストも到着する。 「お好みで蜂蜜…

重いと外に引っ張られる 1-2

「何か、とおっしゃいましたから当然メニュー以外のものが欲しいのだと」 「そういうわけでは、あのでも、もし、可能なら作ってもらっても……」 「かしこまりました」そう言って女性店員が入り口近くのレジのあたりでコーヒーを慎重におとしている店主に近寄…

重いと外に引っ張られる 1-1

重田さちの身辺調査の途中、彼女が勤めていた塾を訪問した鈴木は、これといって事件につながるめぼしい情報を得られずH駅近くの学習塾から出てきた。早朝、塾講師からすれば勤務は午後からそれも夕方からなのであって、午前中はほとんど生活の活動を行ってい…

摩擦係数と荷重9-5

種田は眠ってしまった。 起きた時には景色は一変して、背の低い建物ばかりの田舎道を走っていた。冷たい風が首筋の温度だけを奪っていた。 「すいません。眠ってしまいました」 「別に構わない」 「すいません」 「なんとも思っていない」 「後で私が運転を…

摩擦係数と荷重9-4

車に乗り込む前に種田は行き先を聞く。このあとの予定が明確ではないからだ。 「次はどちらへ?」シートにじっと体を預けて熊田は動かない。停止。電池が切れているのか、うんともすんとも言わない。「タバコ吸ってもいいですよ?」ピックと体が動き、こちら…

摩擦係数と荷重9-3

「おい、種田聞いているか?」ぼんやりと現実から乖離していた種田に遠くから声がかかる。 「はい」自分の声でやっと現実の世界に再登場。 「帰るぞ」 「もうですか?監視カメラの映像は?」 「生憎ですが、その時の映像は記録されていません」申し訳なさそ…

摩擦係数と荷重9-2

「いえ、そういうわけでは」 「事件はまだ終わらないような気がするな……」 「それは予測ですか、それとも勘ですか?」種田は熊田を覗くようにみる。 「さあ、なぁ。どっちでも同じだと思うけど」 「予測はデータ。あくまでも観測された機械、機器からの情報…

摩擦係数と荷重9-1

「各家庭に設置された防犯カメラの映像は保存されていますか?また、保存されているとすればどのぐらいの期間を遡って見られるでしょうか?」種田は熊田とともに、アートプロジェクトが加入するセキュリティ会社を訪ねていた。受付で事情を説明するとこぢん…

摩擦係数と荷重8-1

相田は銀行強盗の捜査に駆り出されていた。捜査といっても、事件の核心に迫る主要な捜査とは違い、捜査員交代の埋め合わせである。仕事は事件担当者からの指示を仰ぐ、受け身であり、担当者の判断が遅いために指示が出るまでの時間が長い。白昼堂々の強盗は…

摩擦係数と荷重7-9

「私がそう望んだからですよ」屋根田もひるまない、それどころか二人の間だけの意思疎通さえ感じる。二人に視線が交差する。 「仕事を始めて間もない頃は選んでいる余裕などなかったでしょう?」 「いいえ、最初からこのスタンスでやっています。スタッフは…

摩擦係数と荷重7-8

「よろしいのですか?」女性が目を丸くして反論を込めて問いなおす。 「仕事に焦りを感じながら作成するとどうしても歪や完成を急いでありきたりの商品にしかならない。雑誌からすれば、穴を開けられないのだろうがいくら前に仕事しているからといって相手方…

摩擦係数と荷重7-7

案内をした女性がコーヒーを運んできた。香り立つ白いカップからの豆の匂い。缶コーヒーばかりのここ数日からやっとありつけた本来のコーヒー。 「タバコを吸うなら吸っても構いませんよ?」熊田はどうして自分が喫煙者であるとわかったのか、不思議であった…

摩擦係数と荷重7-6

ドアががあるべきだろう場所は洞窟の入口のようで、いきなり巨大な空間が眼前を襲う。外観からの想像をはるかに超えた天井の高さと、空間の広さである。まさに体育館そのもの。天井に張り巡らされた無数の金属はどれもまだサビを知らない状態で若々しさを保…

摩擦係数と荷重7-4

「内部の人間が犯人である可能性を捨てたわけじゃあ、ありませんから」熊田は涼しい目でそれに応えた。 「身内を疑っているのか?」 「あくまで可能性が少しでもあるかないかですよ」熊田は話していて、自分が種田に似ていると思えた。椅子に預けていた体重…

摩擦係数と荷重7-5

バスの右折でようやく視界がパッと開けた。上り坂を直進、信号はない。十字路の一角に個人経営の商店が見えたが、シャッターは閉まっていた。まだ先へまっすぐ進め、カーナビの点滅と目的地付近を知らせるアナウンス。 「どこだ?」 「あの家です」種田がぴ…

摩擦係数と荷重7-3

鈴木が恐る恐るタバコを隅に寄って吸い始めると熊田はいつものムスッとした顔でブースを出ていく。行き先は会議室である。 鑑識の神は泊まりのようだ。のけぞった姿勢で背に持たれて座る神がドアを開けたばかりの熊田と目があった。神の無精髭が目立つ。 「…

摩擦係数と荷重7-2

朝食をとる習慣のない熊田は、コーヒーでその糖分を補っている。美味しくはない缶コーヒーにも幾らかの使い道はあるようだ。セットで嗜む嗜好品のタバコもついでに吸おうと思い、廊下の自販機でコーヒーを購入。ぐびっと一口飲んで隣接の喫煙所で今日の一本…

摩擦係数と荷重7-1

次の日。空は高く青々とどこまで終わりのない永遠を思わせる表情。駐車場から署内までのほんの数メートルでも日差しの暑さを身にしみた。まだ体が夏仕様に切り替わっていない。冬の名残を惜しんでいる。寒さを羨むのもそう遠くないだろう。熊田は入り口脇の…

摩擦係数と荷重6-3

「そうですか。では、どなたとお会いになっていたかを教えて下さい」熊田の両手が軽く合わせられる。 「これはクライアントのプライバシーを損害します」顎を引いて彼女のぐっと柔らかい目元が強く細くなる。 「これはもう事件です。あなたの娘ともう一人の…