コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

解決は空力で

水中では動きが鈍る 3-9

「不可能だと認めることも時には必要だ。ないことを嘆いても充足感は満たされない。否定はさらなる否定を増加させる。きっぱりと別れてしまったほうが楽なんだよ」 「諦めですよ、それは。現実に……」 「目をそらすな、しっかりと見つめろ!」熊田が言いかけ…

水中では動きが鈍る 3-8

種田は小走りに署の駐車場で丸まった背中の熊田に追いついた。右指にはタバコが挟まっている。 「熊田さん」熊田のシビックのドアに手が触れた時に種田が声をかけた。多少息があがったていたがものの数秒で整えた。振り返った熊田は驚きも意外も、感情を表す…

水中では動きが鈍る 3-7

「そうだな。話したというか、報告だよ。警官がエンジンオイルを捨てた映像を上層部に上げなかったもっともらしい訳を言ってきただけ。お前が知りたい事件のその後については現在も状況に変化はない。休暇中の警官もまだ自宅には帰ってきていなしな」熊田が…

水中では動きが鈍る 3-6

「それは国道を走ってみればわかります。Z町から向かうとトンネルの反対側に出る道の方が近道ですが、ちょうとカーブの頂点でトンネルへの道と繋がっているのであそこで減速すると後続車に追突される危険があるために遠回りをしたのでしょう」他人の喫煙に…

水中では動きが鈍る 3-5

「……ここ禁煙ですよ」澄まして熊田が指摘する。 「お前、怒られるのがわからないのか?俺のことはどうでもいい、証拠を隠してた事実はそう簡単に許されはしない。わかっているのか?」 「はい」明らかに捜査の進捗状態よりも自身の進退に比重が傾いている。…

水中では動きが鈍る 3-4

上層部の面々は長机に揃い、入室の熊田を一瞥、無言だ。後方から前列付近に到達すると熊田が言う。 「お呼びでしょうか?」 「お前、録画した映像を提出しなかった正当な理由があるのなら言ってみろ」片肘をついて上目遣い、白眼が強調された瞳で中央に座る…

水中では動きが鈍る 3-3

血液が凶器に付着していれば殺害に使用されたと断定されるが、警官の部屋から見つかっただけであって当日の警官のアリバイはまだ正確には照合されていないのが現状である。つまり、何者かがもしも凶器を警官の部屋に忍ばせておくことができれば疑いのかかっ…

水中では動きが鈍る 3-2

まず警官の逃走については、特に尾行を巻くための逃走ではなったそうだ。正義の象徴である警官としての自覚が裏目に出たといってもいいだろう。急ハンドルで進路を変えたのは覆面パトカーに目撃されたため。つまり、追いかけてくる熊田の車両を覆面パトカー…

水中では動きが鈍る 3-1

夕刻の住宅からは夕食の匂いが換気口を伝って外部に漏れ出していく。日はすっかり暮れて、突然のカーチェイスから一転して白バイの登場は急展開で終幕。数分遅れでやっと別班の捜査員たちの車両が到着したが、まだ白バイが現れた詳細な説明は誰からももたら…

水中では動きが鈍る 2-7

「あいつ何考えてんだよ。これから事件を起こすつもりじゃなかったのかよ」相田に悲愴な声が含まれている。 「知らなですよ、でも逃げるってことは犯人だって言っているようなもんですからね。何か、証拠でも隠しもっているんですううううよ」前のシートに体…

水中では動きが鈍る 2-6

「……上にも下に横にも斜めにも人がいるのが嫌なんだ。わがままといえばそれまでだが、無駄な挨拶や気遣い、配慮がどうも体に合わない」 「社会ってのは、たいていそういうものですよ」相田がきっぱりと切って捨てた。そこには同意も含まれていたかもしれない…

水中では動きが鈍る 2-5

「うるさいぞ、大きな声を出すな。上からの指示なんだ従うしかないだろう」相田の説得が始まる。彼がこの中では最も中立的で常識に富み、一見していい加減そうな風体は常識人を隠すための装い。誰もが皆何かしら装っている。 「いつもの言い方に比べると語気…

水中では動きが鈍る 2-4

「熊田さんはよく犯罪者の心理が読めますね。僕なんかはてんでダメですよ」鈴木はフルフルと首を細かくふった。その言い方や行動から擁護を望む心のうちが滲む。 「お前はたんに頭のネジが何本か抜けているだけだろうが」 「いまどきネジが抜けているなんて…

水中では動きが鈍る 2-3

無線のやり取りが途切れた。 静寂。 行き交う車にライトが灯り始める。 人通りも少ないのかまだ通行人は下校中の中学生一人だけである。 カラスの鳴き声。 出てきた。交番の引き戸が開くと警官の姿。軽く中にいるもう一人の警官に挨拶をしてドアを閉めた。制…

水中では動きが鈍る 2-2

相田にとってはわざとらしく馬鹿にされるよりもきつい仕打ちである。「バカ、違う、勘違いするな」種田が後部座席を振り向くと冷ややかな目で相田を見据えた。蛇に睨まれた蛙である。視線は5秒ほどで正面に直る。鈴木の頭が相田によって叩かれる。 「いたっ…

水中では動きが鈍る 2-1

「第三の被害者の身元を調べるほかにも、こなすべき仕事はあります」 「だから?死んだ者はもう生き返らない。しかし、これから殺される者は生きている。死体から見えてきたのは殺され方と死んだ事実のみだ。だったら、犯人と思わしき者に張り付いて犯行の間…

水中では動きが鈍る 1-7

「……なんでもありません。もう大丈夫ですから」言葉の後半はきりりとしたいつもの種田の口調である。気を使わせないためだろうか、喫煙室を出た熊田に続いて種田も部署へと戻った。 「あんまり、根を詰めるとあとが大変だからな」そう言うと、相田はどかっと…

水中では動きが鈍る 1-6

犯行自体が演出で、取り調べも行員たちの演技。 騙されたのは最初からか。 お金はどこへ消えた? 銀行内からは一度持ちだされて、近くの安全なしかも調べの付かない場所に保管され、警察の撤収で回収。 「もう一度聞きますが、銀行強盗と殺人の結びつきは何…

水中では動きが鈍る 1-5

「その説明だと犯人は銀行全体となってしまいます……」そう言ってから種田は言葉の続きを想像する、紙幣が移されていないのは移動したと見せかけるとの洞察ができあがる。 「銀行員が強盗をはたらかないと誰が決めた?警察官や刑事、役所の職員や議員、会社員…

水中では動きが鈍る 1-4

「参ったな。誰にも言うよな」一度種田を見て、視線を逸らしまた、元に戻してから言った。 「今まで私が誰かに話した事実があったでしょうか?」じっと真っ直ぐな種田の眼差し。 「ない。もっとも会話の頻度が少ないだけだがな」 「それがなにか?」「 「い…

水中では動きが鈍る 1-3

種田は喫煙室へと足を向けた。 「熊田さん」窓辺に立ち、なんともなく二階から下界を見下ろしている熊田に声をかける。タバコの煙をまとった熊田が振り向く。佐田あさ美の通報で駆けつけた警官は一人でしたよね?」 「ああ」振り向いた顔はすぐに元に戻され…

水中では動きが鈍る 1-2

「はあ。三人目の被害者の身元は判明しました?時間からしてそろそろかなと思いましてね」 「女性、推定年齢は20代から30代。身長は160センチ。出産、妊娠はしていない。歯の治療痕から、発見された現場付近の歯医者を調べさせているが、殺害場所が不特定だ…

水中では動きが鈍る 1-1

早足で歩き駐車場を横断。エンジンを掛けるのかと思いきや種田が乗り込んでも運転席の熊田は火のついていないタバコを咥えたままフロントガラスとにらめっこ。日井田美弥都とのやり取りから何かを掴んだのは不自然な行動から窺えた。両手でハンドルを抱え込…

重いと外に引っ張られる 5-4

「と、言うわけです」のびた麺に琥珀のスープ。食べ急ぐ繁盛店ならではの後続への配慮もいらない。あんな狭い空間で早く食べろと急かさせて食べるのはどうも味を求めてまで並ぶ意味が無いように感じる。相田はとっくに食べ終わり、タバコを吸っていた。鈴木…

重いと外に引っ張られる 5-3

「娘さんの捜索願を出していますね、発見された日の翌日に」 「娘が帰ってこないことなんて今までなかったの。親が子供の心配をして当然でしょう、なにがいけないのよ」 「変ですよね」鈴木はわざと、間をとって先を急ごうとしない。相手がじれるのを待って…

重いと外に引っ張られる 5-2

「お前、給料何に使ってる?」 「へ?なんだろう、そんなに高額な買い物はしませんから、それにカードもめったに使いませんし」 「貯金なんかしてないよな?」 「してますよ、そりゃあ、このご時世ですからね、公務員と言えども絶対はないですから」 「いつ…

重いと外に引っ張られる 5-1

「そういえば相田さん、銀行強盗の捜査にも駆り出されていましたよね?」 「結局は人員が余って監視カメラを見直しだけ。まぁ、デスクで暇しているよりかはマシだったけどな」 「で、どうでした?なんか僕、見落としてたとこありました?」鈴木はラーメンを…

重いと外に引っ張られる 4-4

「どこが論理的……」 「魔とは何でしょうか?心の隙間。あるいは、日頃の勤務態度がきちっとしてかつ警察という無性に近い奉仕も残業に含まれた。仕事だと理解しても定年までの全うが困難な職種です。私生活でイベントなり、付き合い、デート、趣味の時間、家…

重いと外に引っ張られる 4-3

美弥都はエプロンで手を拭く時間に考えをまとめたようだ。「……わかりました。これから10分で私に仕事が発生しないか、店長が戻ってこないかの両方が満たされれば、お話を聞きます。ですが、急な仕事ができたらそこでお話は終了とします。よろしいですか?」 …

重いと外に引っ張られる 4-2

三件の事件(ここでは銀行強盗は考えないこととする)はどれも女性が被害者である。それも独身の女性である。殺害場所と遺体の発見現場はおそらくは異なる場所であると推測された。第一の事件での被害者及び遺体周辺の血液量と致命傷となった際の致死量の血…