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「はい」か「いいえ」 7

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「臨時休業」を力いっぱい書き付けた印刷(copy)用紙を店内から貼り付ける。

 筆pen(ペン)の踊る動きを求めて隣の文房具店へ押し合いへし合い、命からがら目的の商品を買い、四つに折り畳んだ白衣(はくい)から取り出す用紙に清算(レジ)台を断って借りる。購入済みを証明する片粘帯(tape)は不要だと、断った。一筆。蓋を被せると日本正(にほんただし)は試し書き用に使ってしまいなさい、どうせ私が持っていても印料(ink)が揮発してごみと貸す。購入した一回こっきり使用済みで良ければ持って行かれるがお客へ渡しては、と店員に返却した。困惑は目に見えていたが彼にとってpen(ペン)は不要な所持品として生来君臨する。目的物は使用の確約された場所にあるべきなのだ。

 カビの生えた蜜柑が一つ、おもちゃのゴキブリが一体、反対の袋状物入(poket)を探ると栄養液剤(drink)が一本と丸裸のせんべいが入っていた。往復数mの距離でもみくちゃにされた証拠品だ、購入した覚えはない。

 を下す。一人、背の高い女が人の群れ、壁掻き分けて先頭に踊り出た。紋所、印籠を掲げるごとく片手には手帳らしき黒い革製品が見えた。一斉に店先に空間が出現する。警笛(klaxon)が鳴る、道路をはみ出したまさにはみ出し者が不注意を指摘されるか。

 自動扉(door)を開けた。取巻きに徹するお客どもは顔を見合わせる、国家権力には逆らえず、ということは違法行為の自覚は多少なりとも感じているらしい。隠れた犯行は無実の解釈だろうか、自問は猿へ理性を求めるに等しきかな。

「暴動と呼べる規模ではない」

「納得のいく説明を述べよ!」焦燥丸出しを平然と同姓異性の区別なく節操なき日常が形成されている。背の高い女は迫った。鬼気迫る怒性はいっぱしに主張の準備さえ常日頃懐剣の抜き身よ期たれ、日本は鎧戸(shutter)の遮蔽を待つ。

 椅子を譲るように勧めた。一階精算場(レジ)にはほぼか、いいやそっくりまるごと流用した前の所有者である建設会社の受付長尺対面台(counter)と対面に淡い藍(bule)の陶鉢(うえきばち)に枯れかかる観葉植物が首の皮一枚花屋の突き刺す合成肥料の延命は情け、一命を取り留める。先に、その隣二脚の片方へ日本は腰を据えた。建設会社当時はこうして得意先や仕事相手が担当者の来訪今や遅し受付嬢の視線を浴びつつ浅く腰掛けたのかも、とはいえだ、向かい合う必要はないのではと日本はこの配置がもたらす効用のおかしさ思う。

 起立を貫く女性は種田と名乗る、隣町の所属を言い渡す。わけあって管轄外のS市を担当する、二三事情を訊きたいので答えてほしい、端的に彼女は告げた。

「表の騒動を訪ねないとは、あなたは変わり者だ」

「そう呼ばれること、呼びかける者、両方は私の経験上有益な働きかけをそれ以降生み出すことはありませんので、どう呼ばれようと、私は不動です」

「理知的、言葉は通じる」

「『する』と『しない』を標榜しお客に少なからずその片棒を強要する」種田は軽く瞬いた。

「取り上げた記事を鵜呑みにされては困る」日本は袋状物入(poket)に両手を隠した。膝を数㎜外に向けて言う。「私自身が掲げたそれは訓示であってお客に強いるなどと根拠薄弱ではないのか。尤も在無(あるなし)に因らず私は不動不変である。誤解を恐れず言うと、料金を支払い店の敷居をまたいだが運の尽き。他人様の手に身を委ね提供の品をどうぞこちらよりお頼み申します、食べますという意思表示に捺印、署名をしたも同然なのだ。手前勝手にそれを逆恨みされては……、まあ、はっきり白黒に意見が分かれてくれたのは好都合ではあった」

「では、『する』『しない』や『はい』『いいえ』を雑誌の質疑(interview)に応える以前です、どなたかに話されましたか?」種田の肩は忙しない。入出の怒鳴り込む血気盛んな登場を読むに、私の回に期待をする箇所へ質問は及ぶ。避けようにもこればかり口押しのける頭蓋内さくるりぐうるぐらん、回答とはこの事かしら、と余力さ惰性を拝借びゅびゅん傾斜を平端へ飛び出す、飽き飽き目ぼしき獲物の、捕らえ自己のものだと激しき主張には引き下がり収まるを待つよりか道はあらずや。言葉が違える。  

今日が業務は終えた矢先、従業員は早々店内のお客と共に裏口から逃がした。この状況から裏口にも人だかりで埋まる。予想とは検証を義務としてか。

 普段の対人を知る者が意見を、聞かずとも異状とはこれ態度が因子に辿りまるすや明らか必に視えます。彼女よ見上げて、彼は身から出た錆の開場をすっかり他人事に置かれますこの状況の、不可思議の一面に気がつく。暴言を吐く屋外の彼らはなぜ店内に雪崩れ私を外に引きずり出さない。法に守りを、それとも現今が特有の人間性が観測、後世へ履歴をと起こした。いや、暴言を吐くのならば端末に叫びを書き連ねる選択を各自の自宅や生活を送る聞き手が行うだろう。日本は問へ返えす。

「妻には打ち明けておらず、とはいえ私の性格を熟知する。知っていると言えますか、それでも」

「お店はあなたのほか、二名の従業員が籍を置きますが」

「理念は伝えた。刑事さんはもしかすると、私が強要したばかり『する』『しない』が個人の性格形成に支障を来たした。責任の所在をまさか私に取れとでも?」

「証拠といえるのは物証である、あなたが言い放つ『する』『しない』の文言を発した質疑(interview)掲載の記事と『日調理フードイメージ』の受賞の演説(speech)。影響を与えた当該人物と惚けた国民が認定するには十分です」

「駆け込んできた割に事前の学習は済ませている。詳細をできれば教えていただきたいものですな」あらかじめ調べを進め確証を得て店に乗り込んだ、それとも人だかりを偶然見かけ機運に乗じて一気呵成、準備不足ながら見当をつけた店を訪れた。私の返答如何に『あれ』は在る。弱気の虫が湧いて出た、計算が一人走ったのだろう。

「詳細の検討はこれから取り掛かる予定です。概要は把握、さわり程度ですが情報は常に膨大に収めてあります、ここに」得意げが様になる。自信に裏打ちされた行動これは自己を底より信ずる許諾が可能とするのだ。どことなく貸切自動車(taxi)の運転手に似ている、日本はすらりと伸びた彼女の体躯に見入った。

 煙草を取り出そうと気を緩めたのが、いけなかった。彼はすぐさま後悔の念に駆られた。

「奥さんは健在でしょうか?」心臓に釘が刺さった。煙草を掴む右手はく字に固まる。どっと汗が噴出す。左右に定まりを失って胸の裏(うち)が開示、見られしられてしまった。

「……ええ」精一杯だ。これより先は墓穴を掘る。いや、なにをいう誤解の間違いだろう。あいつは生きてる。運転手が言い当てたのは彼女なりの個人的見解に私が可能性ありと理解を示したに過ぎずさ、解釈とは人の数、である。

「本日はどちらにご自宅か仕事場か。あなたの会社の事務を担当なされているそうで、仕事が不可抗力にも早く切りあがった。合理的なあなたは、明日の開店まで店は閉める。隙を突き、暴動が収まりかけるを見計らい裏口から脱出を試みるでしょうか。そして奥様と久方ぶり夕食の席に着ける、という算段」

「知ったような口をきく」かすかな震える指先、知られてるのだから隠蔽は動揺の膨張につながる。口腔巡合(food pairing)の次の事業展開を思い浮かべなさい。日本は煙草の端を赤々煙吹かせてあわよくばこちらへ相手の気と自らは気分を紛らわす。言い聞かせるみたい、考えを他所へ外へ逸らす。重要度が高まればおのずと精神的影響がもたらす体の震えは抑制される。知識はそれでも現在の微動はとめられずじまい。

 鬼だ、刑事はこちらを見定める、どの部位より裁こうかしら、舌なめずりに蛇のようなちろちろ這い出す長い舌が泡、と消えた。美術館に飾られる壷に成り代わった気分を堪能、体感できるとは、ようしかなり普段の考えが復帰しつつあるぞ。答えなければそれで不都合の衝突をやり過ごせてしまうではないのか。からからかっか。内部で高笑い。畏怖を作り出した張本人は何を隠そう私自身だったのさ。やはり、人との接触は避るにかぎる。妻も私の中で脈打つ、今後の仕事相手とも通信上のやり取りへ完全な移行に切り替えるとしよう。例外、特別を排除する。失敗は一度きり。

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 灰皿が差し出された、刑事も喫煙者らしい。

「どうも」

「連絡を取りたいのですが、奥様はどちらに、ご都合は?」種田は畳みかける。

「さあ、本人に聞いてください」灰を落として日本は口を左右に引く。多少気持ちに余裕が生まれた、私をうまく殺せた。

「ご自宅に伺ってもよろしいでしょうか?」

「なぜ僕に尋ねる?妻が自宅にいるという見当をつけているならば、当人に直接聞くがよろしい」

「自宅にもこのtall building(ビル)のどの階にも、研究施設にも奥様はいない」

「『ない』という言い方は控えてください、私の前では」

「ではこう言い換えましょう」種田は大きく息を吸った。胸郭が膨らむ。「この世から奥様の存在は姿を消した」

 誕生祝いの洋菓子(cake)、立てた生きた年数分のろうそくに灯る淡い赤の混じる黄色(orange)が掻き消えてしまった。

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「『する』と『しない』についてお話しましょう。長くなります、偶然にもほら隣に椅子が空きます。座って家具職人(つくりて)が報われる。座ってあげる、などといった擬人化は嫌いです。壁掛け時計の電池交換を踏むにこれ椅子が出番であるのなら、気まぐれただただ座る行為よ許されましょうよ」

「断る理由はありません。、どうぞ続きを」

 二人は同じ方向を向いてそれぞれの役割に徹した。