コンテナガレージ

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 あいまいな「大丈夫」では物足りない。はっきり「許す」が訊きたくて 6

 物音が聞こえる。階段を上がる正面奥に自動昇降箱(elevater)が出迎える、左手に構える二枚の戸(door)はひっそり佇む柳。手前の一枚は色艶と素材に勝る『応接室』金色の金属板(plate)が明らめ掲ぐ。二枚の間やや右寄りに額に入る掲示板が掛かる。奥の一室は事務関連の部屋らしい、『総務』は白地板に剥がれかける黒文字を残す。

 囁き。金属音。打音、硬質な物体とが弾突(ぶつか)る。金属の摩擦。それから匂いだ。肉の脂香が鼻腔をくすぐる。奥の戸(door)を挟み二人は屈(しゃが)む、背中を戸(door)の両側にぴったり這わせた。目が合う。判断意通(contact)。行け、という合図。

蔦(つた)の旺盛な植生を描く浮彫細工(relief)、真鍮(しんちゅう)製の戸把手(door knob)を掴むと種田は単純な反応に切替える。危険と安全。この二択が数多事象を凌駕し君臨す。夏用のblouse(シャツ)はいつでも着られる手はず、取り外す済洗濯(cleaning)の紙札(tag)、袖を通す前は忘れず畳み皺へ、軽く繊維伸皺(iron)の蒸気と自重が繊維の波打(よれ)を正してある、衣文掛け(hunger)に掛かる一枚を出掛けに身に着ければよい。

 現実が遅れる。もやもやと立込めた濃霧煽りし緊迫に欠けてはならむ、彼女の意識は何時何時(いつなんどき)問わず視界不良を同席させるのだから厄介。

「警察だ、そのままっ、動かないで!」家具の設置を拒んだ部屋は広さがいの一番視界に到達、『意識を生成するのはどのような理論に基づくのか』、また現在の対処すべき事態とかけ離れる考察へ遊離、飛んでいってしまう。、男性と女性とそれに子供が各々の役割、女性はおよそ腕を振るう設備には思えない給湯室の焜炉(こんろ)を前にゴロゴロ大振りの立方体、牛肉の表面に焼き色をつける。S川の上流は北、S駅方面へ視線を移せば新聞を捲り広げる食卓(dining table)の寝癖頭の主と今さっき目を覚ましたばかりのこれは鳥の巣頭の子供、少女が隣のtall building(ビル)に面した磨り硝子の窓は壁画を、鑑賞するかのよう座る。食台(table)の一辺が壁にくっつく。

「あなた」煙る台所(kitchen)、振り返る女性が男性に呼びかけた。皆靴を履いてる、寝巻きの素足にそれぞれ革靴に運動靴(スニーカー)、突っかけ(サンダル)。

 気怠(けだる)さをこれみよがし魅せつけた男性は、見覚えがある。折り目を揃えて厚みを抑えた手際に几帳面な性質が見てとれた。

「『はい』か『いいえ』でしか私は質問に答えない。答えられないのです。宿命といえば理解が容易いかもわかりません。従ってもらう、自発的な意見は期待すると裏切りに遭う。理知的なあなた方は接触の開始をもって自(おのず)から『規則』を守るでしょう。席は三つ。私が立つか、それとも凝然をご所望か。子供はまだ眠りの中、うつらうつらと時差ぼけでしょうか、定住先にいずれ慣れましょう。昨日と今日の一致を確かめここが安全でもちろん昨日が安定した日々であったか否か、比較をああして頭を揺らし働かせる。もしよければあと一時間ほど、本来はその三十分後の放熱がときに出来上がるのですが食べられはします、はい、予測された無言の質問に答えるとですがね」

「高山明弘さんですね?」早口に種田は投げかけた。まっすぐ、言葉は相手を目がける。視界不良が功を奏した、声に意識が向いたのだ。彼らの配慮かもわからない、とはいえだ、事件の重要参考人、目撃者にとうとうお目にかかった。

 面倒な規則をこのときばかりは有難く思えた、種田は『』内の定義についてを問い質した。そこに事件の真相が眠る、沸き立つ細胞一同より。信条に反するが、そういう気がした、