コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

あいまいな「大丈夫」では物足りない。はっきり「許す」が訊きたくて 7

f:id:container39:20170708165203j:plain

「あなたは高山明弘さんですか?」「はい」

「五月二十七日S駅の地下通路において犯行を目撃しましたか?」「はい」

「事件後、あなたは繁忙を理由に出頭願いを拒否しましたが、離れられないかかりっきりの仕事をあなたは抱えていたのでしょうか?」「はい」

「殺したのはあなただ?」「……」

「人を殺した経験がありますか?」「はい」

「それは五月二十七日ですか?」「いいえ」

「五月二十七日より前ですか?」「いいえ」

「それ以後であると?」「はい」

「あなたは高山明弘さんですか?」「はい」

「以前は高山明弘さんではなかった?」「はい」

「あなたはあなたですか?」「いいえ、はい。はい、いいえ。いいえ、いいえ。はい、はい、はい、はい」

「凶器を現場に隠した?」「……」

「持ち去りましたか?」「……」

「当日、傘を持っていましたか?」「はい」

「所持品は鞄のみ、どこかに忘れたのですか?」「いいえ」

「あなたはだれですか」「……」

「高山博美さんはこの部屋にいますか?」「はい」

「高山秋帆さんもこの部屋にいますか?」「はい」

「あなたはここにいますか?」「いいえ」

「『ここ』ではない場所とは時の隔たり、未来や過去のことでしょうか?」「いいえ、はい」

「あなたはいつからあなたですか?」「……」

「『はい』か『いいえ』で答えてください。さもなくば私の指示に従ってもらう」「はい」

「あなたはだれですか」「……」

「『はい』か『いいえ』でと申し上げました。あなたは約束を破りましたね?」「はい」

「制約を忘れ、答えてください。あなたはだれですか?」

「私は殺人者であり死人であり、目撃者だ」

 くすくす、少女が笑う。けらけら、女性が野菜を押し切る。焦げた牛肉が現場の血溜りを呼び起こした。