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役不足な柔焼菓(sponge cake)と不確かな記憶 8

「店長、聞きました?橋口さん、『PL』の全店に商品を納めてるんですって、野菜がたんまり余って大変らしいですよ」

「はは、お恥ずかしい」後頭部に橋口の右手が所定と言わんばかり吸い付く。やや前に傾く上着(jacket)を迫出(せりだ)す下っ腹が小山、暗室の錯誤、直立と着座の違いはあるにせよ、心持たる腹中は覆いがされていた。

「僕には無関係。勧誘の類に時を割くつもりでしたら即刻席を立たれるが賢明。いくら何度粘ろうが得られるは疲労と消費した貴重な時、それと僕への憎悪です」

「私を足払(あしら)う為にわざと席へ。、一度着席を許したとは、いやはや、これはかなりの難敵でございますなぁ」

「ございますって……」小川はついつい思った言葉を吐き出していた。とはいえ、橋口はまったく気にかけず、にこやかに目を細める。

「順番は私が先ですので、続きの要求は正当な権利の主張です」種田は言った。

「そのつもりです、続きに取り掛かりましょう。皆さん、この時間帯はまだ起きていますか?」三人を見回す、扇風機の首振り運動である。

「店長、それはその、とっても強烈に睨む刑事さんの『事件の引き続き』の関連ですか、それとも『規則』の方でしょうか、あっと私は直視できません」

「僕は常に事件のことを話してるつもりだよ」

「かなりの部分を、脱線に費やしているよ……」

「店長さん」橋口は小川の言葉を遮った。「わたくしどもはご満足いただける商品のみを取り扱う、そのように自負しておりましでですね、『PL』さんの……」

「しばらく慎んで!」初対面相手にも種田は物怖じひとつ、いや恐怖を抱く体質であるからこそ先手を打つのだ、刑事の意向に沿う形で店主の解説は続けられた。間を見つけていざ飛び込む、営業という職の病には慣れたもの、悪気が有無は当の昔に。なにせ口を挟み足場が固まる、種田を同業者に据えた理由は明日にも試供の品をたんと持参する他社の先鞭が切られるはいまのこのときなくしては、時を尋ねた、締め切りが過ったということだ。

「仮定の話です」「睡眠を妨げる空腹を僕が黙らせるとしたら、少量しかも固形物で噛み応えのある口腔内に長く居座る抓肴(つまみ)、珍味が最適なのだろうと想像します」

「試用食(sample)品を持ってます、私」鮭トバ、干し貝柱、貝ひも、豆類全般、海苔、色色(coloful)な包み紙のchocolate(チョコレート)がごっそり橋口の鞄より雪崩れた。傾ける鞄の角度は、あきらかに演出、大皿三品に四名(よめい)各自の皿でも余る円卓だけに飲み物や灰皿は影響を受けずに済んだ。どうぞと彼の勧め。『仮契約』三人の脳裏に浮かんだろう、誰も手に取らず。

「ああっ、これは特別な意味合いは含みませんよ、いやですよ、味のお試し品に恩着せがましい要望とは、ええまったく別物と、はい、捉えてください」

「では」店主は二人のため手を伸ばした。小川が立ち上がって種田の胸前(area)に流れる煌びやかな濃緑と散りばめた銀粒滴を二つ、握る。種田は仕方なく憮然とだが勧められた手前彼女は要求を突きつけているのだから、という後ろめたさも相まって、身近なchocolate(チョコレート)を口に抛り込んだ。小川は、塩っぱいものも欲し鮭トバの封を開ける。一挙魚が香った。

 いち早く姿を消しつつ活力の源となりうる、chocolate(チョコレート)を選んでいた。口寂しさを宣言した割りには、ちぐはぐな選択である。この包みが出てくるとは思っていなかった、店主は過去に弁解をする。口のなか抉る苦味の不始末、拭う仄か甘みて嗜む。

種田の視線に答えた。

「事件を知る前、『規則』を携えたお客が来店してました。一人、二人か、小川さんがその場に居合わせた」物語の始まりに橋口が目を見開いて見つめる、肩より前にでた首が彼の落ち着く体勢であるらしい。店主は橋口の背後を見つめるように話した。「『ない』を強制された。『PL』の店員と言い張る女性が八十人以下に昼食(lunch)を振舞う客を制限しなさい、さもなくば日本正が掲げた『する』が否定される、それでは困るんだ、と強引でしたね。そして取引を持ちかけた、平均的な売り上げから八十人を差引いた全額支払らう、誓約書を手渡す始末です。ひどく強化された印象を受けました、たまに来店する非常識なお客の、自分たちは神様で正当な金額を支払うのだから要求どおり無理難題を飲み込めよ、そういったきらいに似ていた」

「封理(やり)込めた恐ろしさ、とも違って近視眼的な視野が狭まった状態が続いてしまっているんでしょうね。おっと、すいません、どうぞ、店長、お話を」

「それは言えるかも。組み上げたのか遵守を義務けられたのか、『規制』という信義を当人に植え付ける、制約の範囲内であれば何をしてもかまわない、許可をする。許されると人はとても自由に振舞う、ある一線を越えなければ叱責を回避できる、rule(ルール)とは自由に精神を介抱に招く、在りたいという個人の姿が露呈してしまうんだ。世間は他者が植えつけた『制約』だらけ、蔓延といってもいい。あれを守りなさい、これはしてはいけません、そこへは立ち入るな……、きつい縛りに活る。開放感を一度味わうと抜け出せない、癖、引き続き今日も明日も、延々綿々脈々と先々に欲しがる。すべてはきっかけ、植えつけたら最後、虫眼鏡の必要がなくなり双眼鏡に取って代わる。観測者は当人たちを離れられ、動向を身の安全を確保しならが優雅に人態観測(watching)に興じれる」

 種田が煙草を挟んだ右腕をかすかに上げる。頷いて発言を認めた。

「殺傷事件の犯人高山明弘が同様の『規制』を受けていた、と私は捉えてます、捉えられます」

「同様は言いすぎですね」店主は灰を落とす。吸う機会(timing)を逃した。煙草はここが厄介だ、吸うを優先してしまう。忘れっぽく平行するほかの作業に熱中してしまうことは難しい。どちらも平均的に意識に顔を出す。ひとつのことにばかり感けていられはしない。

「しかし発動は同時期と思われます」

「そうでもありませんよ」やっと煙が吸えた。「仕掛た各自の『規制』に副う始動に時期を合せられます、僕目掛けて下りた『規制』たちは同時期とは言い難く多少前後した日取りに姿を見せ接触を試みた。長い期間(span)を費やし店内の食器を愚頭狙(くすね)る、という働きかけもあれば、先ほど述(のべ)た『PL』の偽従業員は植え付けと発動が同時と言えますかね。個性的な、性格を考慮する糸操者(fixer)の手腕が見て取れます」

「『PL』の日本正は細い糸であなたと不審者を渡す。仲介人です」種田はぐっと灰皿に煙草を押し付けた、底の天と照れた蓋の閉まる。あーあ、と小川の悲壮感たっぷりの悲嘆。正面の橋口は手拭い(ハンカチ)を取り出し口元を覆う。どうやら煙草の煙、匂いは苦手らしい。灰の隆起が一煙りうっすら折り曲げた光を従え立昇る。「煙に巻き元の鞘へ往なす。もう我慢がなりません、。非番とはいえ警察の聴取です。あなたは私の質問に答えると言った。のらりくらりはぐらかす、あなたはですよ、私が納得する回答を未だに探っているのでは?答えに窮したらば、即刻抱えたまとまりきらない考えで結構!吐き出してもらいたい!」

 張り詰めた糸が「切れたい」と自ら揺らす。

 それでも店主は煙草を咥えて、煙をたんまり肺へ。彼女の指摘は妥当だ、正当性を過不足なく満ち帯びてる、卓見でありその心眼は実に鋭く的確に物事・対象を捉えた。どうしたものか、のらりくらりは否めない、睨付ける視線の筋をだ、撥ね退けるには信頼の奪取に先ずは専念を、確信に傾くこれへと飛びつく隙、展開を考えるとしよう。これは夕食時(dinner time)の非常(accident)と置換わるそれとも不適か。慌(あわて)慌(ふため)く従業員に持ち場に専念それと近時の未来を見せる対処の良案に自らも注文を裁きつつ、二つの作業を合わせて、行う……。はあ、なるほど。口元が緩んだ、小川は目ざとく見つけ明日他の従業員に私の笑みを言い振落(ふら)すだろうが、それを凌駕する事件解決が手首を返して白米(rice)の上に雪崩れかかる熱々のルー。一緒に味わう、待ち侘びた処へルーがかかるのさ。

「回答を」催促が飛ぶ。

 傾いだ。先手を取る。種田は困惑気みに眉を上げた。瞬きは数える五回を越え往復する。呆気に取られた態度はすぐさま冷静沈着な刑事の振る舞いに戻るも足元はまだまだ覚束無い、平常(balance)を取りて上半身の操る。店主は颯爽駆け抜けた。

「S駅の事体は騒動を引き起こした糸操者(fixer)の真意ではありません」店主は一同を見回す。言葉を切り反応を摂取。「何もかも」「私への接近(approach)です」

「あなた個人の近づきになりたいがため人を殺した。殺人の主な動機が怨恨に代表される妬みだとは言いません、短絡的に反射的に手が滑って起きた殺害の例が数を示す。交通事故がその最たる例でしょう。運転手(driver)に殺意はなかった、飲酒運転の暴主以外の当事者たちは目的地に向う一心に誤る操作に手を染めたのですから。、あなたとの接触を夢見近づくその過程に通らなくてはならない道に殺人が待ち受けるのであれば、当然のごとく人を殺めてもなんら不思議はないと、あなたはいう」

「刑事さん、否定してるんですか、それともそれは肯定的に店長の意見捉えたと私は受け留めればいいのか、判断に困りますよう」口元は家鴨の形態模写、小川が頬を膨らませる。

「ありのまま手の内心情を吐露します、宣言をしていない。あなたの質問を拒ばみます。ここで焦点をずらすわけにはいかない」

「目的はいまだに達成されたのかどうか、こりゃぁ判断する手立てがないね。わっかりかねる」店主は殺伐とした場の雰囲気を和ませようと会話に茶々を入れた小川に目配せをして彼女の気分を宥(なだ)めた。いきり立つ種田の豹変をどうにか和やかな軽食を囲む夜会に引き戻すつもりだったのだろう、彼女にしては世界が見えている。いつもは暴走し、それを館山リルカや国見蘭が制御。やはり一人であると自立心が芽生えるのか、彼女たちへ一品といわず昼食(lunch)を任せる、その時期をとうに迎えた私の合図をいまや遅し首の長くかも。態度が示す。人知れず、店主は改めた。

 右手の煙る煙草を思い切って消す、根元まではまだ数分の猶予が残されていた。体は休めて信号を発する。命じる司令部はと寝床の索的(search)がちくたく刻んだ時を聞きつけ慌てそろそろ未来へ分けた。最有力は上で下の二階。屋根と寝袋、快適な眠りは保障される。床と合わさる固ばる接地はcardboard(段ボール)を重ねる、あまたはcardboard(段ボール)を白衣(はくえ)で挟む、自重の分散が望める。残るは日の当たる窓際か隙間風を避けた階段側それとも真中に位置(と)るか。考え物。だがこれ一旦布を被せ現在差迫る問題を決する。尾を引き後へ響くなら。先々手を打ち後手後手に回る体たらく、悲観しようにもこれが現実、私が人であることを知らしめ覚えを醒ます世のおきてきまりなのである。手立ては最期の手段を用いたとて、どちらへ目の出るか、世を去った者のみこれ得る蜜実。

「『規則』に操られた数人の訪問者と私は接触を重ねました。松本商店の配達人、店内で騒動を起こした食器を盗むお客、自称『PL』の店員、凶器は店の食器だと言い張った女性……」

「その女性は初めて耳にします!」早口、種田は間髪要れずに口を挟んだ。拍子(rhythm)の乱れ。

「店で使用する銀食器は前店から引き継ぐ品で収集の対象でもあった。knife(ナイフ)、fork(フォーク)、spoon(スプーン)のどれかが欠け、半端な一組(set)が現れ出して不足を補うべく精巧な贋物を急遽金属加工業者へ制作を依頼し、数を揃えた。店を買い取る手続きの段不動産屋は手付かずの業務用調理機具と店内を飾る備品(・・・・・・・)は資産価値に含まれる、注釈をつけていた。思い出した私は希少性を量質(はか)りて鑑定業者を呼び、価値があると謂われ競売(auciton)へ品を売買し店と手をそれは離れた。この後、たしか雨合羽(raincoat)を着た例の女性が深夜の今時間店に立居(たち)、二階へ無断侵入。大立ち回り。食器をなぜに売り払うのか、売らなければ殺されなかったのだ、店のknife(ナイフ)が凶器に使われたと言い張ったのです」

「食事用のknife(ナイフ)では不可能です」

「ええ、刑事さんの言うとおり僕も言い返しました。しかし、意志は固く一向に引かない。彼女は『規則』、『はい』か『いいえ』を強要する。主に『はい』を押し付けていた」

「店長、私ですね今思い返すとあの女性は『規則』に縛られてはいました。ただそれよりも、知人の死を嘆く立ち振る舞いとニュアンスが違ったように、ああ、私のどうでもいい意見ですよ、ただ思うんです」

「それは僕も感じていた」店主は種田に顔を向けた。「死はすでに起こったと処理をした、または受け入れた、当人ではないので定かではありません。ひとつ言えることがしかしある。あの女性は凶器とその使用に執着を抱いていた。さらにそれより店の売り払った骨董(antique)のknife(ナイフ)に的を絞りこれ以外は認められない、断言をした。『はい』『いいえ』の『規則』にも準じていた、『はい』と言わされたのです、店のknife(ナイフ)が凶器ではないか、思い込み言わされたとは考えれないでしょうか?捜査に当たる警察でも日本刀を候補に選出するも結局特定に至らず、そのほか未知の凶器がないとも限らない、事実現物は持ち去られていた。通常曖昧にそれらしく類似の形状と殺傷力で、捜査員たちには共通のそれぞれ思造(image)する形は違えど凶器という認識は抱けていた。実に便利な言葉ですよ日本語は。使い勝手の良さと引き換える厄介なしかも朧げな印象の共有を仕向ける。他人のそれと自らの形は違えるというのに。糸操者(fixer)はそこに付け込んだのでは、と僕は考える、いやそれが終着点、その他の選択肢はどれも行き止まりでしたからね」

 しばらく種田は心を放ち。時は刹那に流れは緩慢も量は同隔。口の開き。「達観、ようやく死を受け入れた。溶けた食器を変成し大振りなknife(ナイフ)を生む。死をきっかけに『規則』が彼女に育つ。覆すことのままならない死と『規則』を絡めた、事実を認めるしか彼女には方対処の仕様がなく、選ぶ項目はただのひとつ、その人物はこの世を去った既成事実を突きつけられた。死体を見た、または証拠写真などを突きつけられた、具体性を持つ事情は用を成しません、推論をあなたは話す、追求は控えます。これが雨合羽(raincaot)の訪問者、彼女の動機とあなたは仰る」

「不満ですか?」店主は訊いた。平常を保つ繕う筋肉は負荷のかかること。お互いに、視覚を借りてよく解かる。

「目的、意を図りかねます」ため息をついた。「好意や復讐を遂げる殺意を携えあなたに近づくとしましょう。執着を抱くknife(ナイフ)もどのようにか関わり、形状を変え殺害に使われたと大目に見ます、それでもです、『規則』を植えつけた裏方の存在はあなたの想像でしかなく、日本正はその候補から除外をされる。彼は捕まった、罪を認めたのです!」

「凶器についての説明はなされていないのでしょう。彼が首謀者だと言い切れる根拠は僕の想像外です。警察、あなた方の立場を想像するに、とりあえず体裁を一目散に自白を願出(ねがいで)た方(かた)を捕らえることに何かと世が沸立(わきた)つその手前事件に終止符(period)、区切りを点けた」店主は醒めざめの正面青き、見入りて橋口の視線と逢う。ぎょっと、一驚露(み)せた頬(ほう)の上向(うわむき)は一度の限隆(たか)い肩先と平に保つ。「あわや、日本さんが私に近づくため人を殺し、ここへの訪問者を操ったと認識を強めてしまいそうで、律儀な方で助かりました。誰彼とに無私であればこそ尚更気にもかかり焦燥を煽ったのでしょうね、送る品に虚心を体(あらわ)す姿勢(pose)が友好に用を為したのは、ええ、もしかすれば生きてきた人生(なか)で初めての珍事かもわかりません」

「話が見えない。一人納得されて、自己処理に浸る。詳細を」

「そうですよ。店長ばっかり、私たちはかなり前からお預けを食らってる。目の前の骨付き肉にむしゃぶり食(つ)きたくって唾液で口の中はくじゅじゅですよ。時は満ちます、店長でもここで把晦(はぐらか)すと碌(ろく)な目に遇いませんよ」

「焦らしたのは必然だったから……」心処(こころお)きなく吸わるる、なんとも気楽な反面一吸一本味わえど々もあからさま値裏(ねうち)石ころ真似る果ては姿(な)れ。私は時と処を問わず煙草(えんそう)の価値を密か高めていたかしれぬ、抓む巻筒は端、ともす。さて、これからが本題である。本番と言換えられもする、つまりは完結編だ。つくり話の愛者は語(かたり)の猪(い)へ先走(はし)る。奇異に抱(いだ)かれ瑣事(さじ)の一片(ひら)見落すを換え、結滅の酔に浸うる、幾度験みるやも次なる構事と遊(いそし)み、とかく執(よう)し、過の日悔い喘ぐ荒(すさ)みは忌むべくと忽ち消える。されば演説を顧みろ、とは言わぬ。むしろ、このまま怒とう渦流に浚るなら御の字と私は思うのだ。未だ把晦(はぐらか)すか、曇り晴れまじ今況の、叱罵(しつば)根掘り端掘り感入(きわま)る過境であるのだが、時は今今満願、掛ける壁の時計が一差す先ここを発つ。視覚を種田より戻す。店主は憂くつ口唇に幾本目かを繰る、下降飽きた端役に主役と順繰り。集まる線分をハシと、ひとつ捉えた店主は言葉を投げる。

「手操者(fixer)をご存知ですね?」