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はじめにクロス、つぎにフォーク 2-1

「鈴木さんが持ち込む資料によれば、種田さんの断言と区役所の記録は符合します。論議を他外(よそ)に、日本正さんの妻はその死亡が確定したわけですね。では生きていた、僕と維(つな)がる訪問者は単なる思違であったのか、書類より訪問者(このかた)こそ居場所を突き止る有力な手掛りでしょう。妻久世さんの克明な履歴を眺めるうち、 結婚を決に退職するまで日本と対をなす、研究職に彼女は就いていた。商品開発の果務(ノルマ)はあるにせよ、試作は体の酷使と創意を伴い実が結ぶ。意義のに囲まれ、勤務(とき)は流れましたか。 退いた研究室(labo)へ頻繁に通っています。薄情な当該(point)に実験過程(date)あるいは走書き(memo)などに彼女が業績を照合(てらしあわ)せても、間断の透取(trace)は頭痛の種であった。、納める品は授けていた、彼女は完遂をもって係りを退く。分業した作業工程を塊(ひとつ)にあつめる際、不具合に出喰わしたかもしれませんね、そのあたりの詳細はひけらかす分量に達し後述を許し得る。分が悪い、今回は潔く見送とします。 妻の外出を夫はひどく嫌っていた、家に縛り付けたい、家内として振舞って欲しかったかもわかりません。抗議の電話(claim)がタイヨウ食品人事部に寄せられています、耳に余る(・・・・)言動だったのでしょう、お客様相談室集計の警戒要覧(blacklist)に一桁ながら最上位に名を連ねる。夫婦間(ふたり)の決め事ですから関渉は控えます。要請を受た久世さんが助言に出向く、自宅の電話は呼出音の出迎え、端末のもう一人謝ってばかり機械が応者、これで何度、戻るや敲きの空洞不足、不在より一目散の火急、沸騰凄みてタイヨウ食品殴らんばかり。このときことは現・専務が事情に通じていた、資料を鵜呑みにするとですがね」

「何か、裏があるとでも?」小川は欠伸を堪えてきいた。

「如何に業務の一工程が理想を呼ぶ成果といえど元は会社への貢献である、個人の働きが反映される程度かそれとも時や場合によるものか、タイヨウ食品に明確な規定はなかったらしい。駆出した今世紀の頭(はじめ)、社内における法制度は充実とはお世辞でも言いにくかったんだそう。近頃は音声記録(data)を書き起こしてくれるんだね、人はますます鬼に近づくよ」

「料理人はロボット(robot)に取って代わられる。警鐘ですね、駆逐されぬよう私も今のうちだ、専売特許に磨き上げねば」

「無くなりはしないさ。 よりはっきり幾分がなされる。それだけのこと。縒り分ける、そそり立ち仕切りが加わる、中途半端どっちつかずは篩(ふるい)にかけられ大きい粒の網の目に、残こる容(すがた)を映すのさ」食台を往復する腕を、店主はすみやかに仕舞(すま)せた。「日本さんの主張は吾(おのれ)の倫理にそむく身内よりの憎しみに思われるも、科学者たちの処遇改善を求める至極真っ当な措置だった。長きを約束される研究環境(いばしょ)は離れがたく同業へ渡してなるものか、雇われ選好(えりごの)みを捨てた作業が個々人の研学と違えたとして、うん、身に余る処遇は有難いと認めていた。それゆえに自我へ向かう訴えは憚られた、退職を命じられるかもしれない、路頭をさ迷い立てる暮し向に慄き凌駕する内生手がけて実験の放棄に打ち震えるんだ。知覚(おぼ)えた過程を収めていますしこねくり回す末のこれまでが現在(いま)をもたらす、成果である。はい、そうは云っても項目ごとの値一つ一つ網羅はままならない、あくまで想像。ですが、 物事の大かな予測は部外者と資料を基に類推は囲む食台(ここ)の誰もが、そう方々の自活に伴なう覚悟が常日ごろ脳疲労を起こすならば『再現』の資格は得ている。 日本さんはすべての、久世さんが積み重ねた試行と推移を共せよ打診した。鈴木さんの聞き取りに『この提案は戦慄した悪魔の囁きだった』、専務は評しています、ええ資料によれば。所有権の判然たる区分は内密にしておきたい、警察といえど信用ならない、流出は世の常であるか、。専務の不安と嘆きをない交ぜに捨てた語尾より商況を推し量れ。なれど、失われた命を盾鈴木さんは解ける明らかへまい進した、彼でなくては打明されない事実が次の一行に書かれていました」

三頭は傾き円心(まえ)にのめる、

振りまく花形装飾電灯(chandelier)の明かりは意気揚々店主の右肩先(かたさき)掠め橙傍(かたわら)居てよ居なさい届けた円卓、

疎まれて役、薄煙りへ意が乗(うつ)り、

 隠れて覗き天井、その長き黒き振る姿に面々詳らか、心持ちを取って代わられ、。

 

「実験記録(data)は開示、持ち出しをも許可、久世さんに向かうタイヨウ食品よりの請願は面会を禁じ彼女よりが発信には対応を拒む……」ぐらぶら環(まわ)る資料。遠き人を思う横顔に見据えられる。「組み換え遺伝子食品の台頭打ち砕く隠し玉ですから、国内外より注目を集める。権利は半々、という解釈でよろしいでしょうか?」

「大胆に踏み込みますね。、刑事さんは」

「あっとこれは、いやあ、なんと言いますか……、少々不躾でした」

「私を入れて社長と会長の三名のみ。居りません、当社は生まれ変態(かわ)る、あの危難を知る社員(ものたち)は転職させました。しゅくしゅく食品(たべもの)と向かう、若い人材をばかり集めてましたから、各々ここぞとばかり志を打ち明けましてね、こちらとしては都合よく、構いませんよ、彼等は承諾を交わした。、反論が言えた立場にありません。いえいえ初めに口封じの協力を仰いだらば完了、とは征きませんさぁ。もっとも『実験を手放すなら働きに見合った額を上乗せだ』といってくれれば一手間省けたのですがねぇ、labo(ラボ)に居着(すみつ)く科学者というのは頑固な方々で、まぁこれまで手塩にかけた作物のように実験と生きる。それぞれが抱える計画(project)のどれもが中断しました、言い渡すも頑として退去に歯向かう、それに加えて元同僚が私情、社の方針転換(心変り)を洗いざらい網羅、厄介な性質ですよ。、それから突き詰めて遠因を解明しようとまで、彼らは本気だった。優秀ですよ、横の掬(むす)びに頼られては今のご時世一弾指頃(いちだんしきょう)、煽動悪宣(デマゴギー)は広がり善からぬ方面へ予期せぬ肥沃な気色(いろ)、抑制は控えよう思至りまして、」

「それで自分らの研究に区切りが着くまで施設内の利用は、認めたと。はぁーん、大盤振る舞いとはこのことですね。 提案に抗い進退を預る生殺しの科学者たちに給金は支払う。なおかつ、限を定め研究を奨励した。まさに理想郷」

「これは副産物、まさに振って沸いた。、今来役果義務(ノルマ)と割切りこなしていた節が依願退職を突きつけた拍子、枷がはずれたことで思いのまま、奔放に戯(あそ)び出す。結果、遺産(のこ)る佐久間久世君の研究、『合種降舌(variant title)』を誕生させた」

「流出を見過ごした代りに思いがけずの大金星は挙がった。その後完成を実(み)た研究成果に開示を求める強請は、いかがでした?」

「彼の望みは佐久間君一人。研究は彼女を自宅に引き留める出しに使ったのでしょうな、だたし会社(うち)を辞める。彼も彼女と同業、研究者です。他人(よそ)が成果を羨やむ者ではありません、そのような俗に意識が向いた過去のあってか、いや削いだのでしょう。狭義の直抱主義者(realist)、己と巷の二物が彼が抱く世界なのですよ」

「しかし、家にその実験装置や器具が置けたとして月の電気代は省エネ機能付きと別物でしょうから、完成を設けた果(はて)にタイヨウ食品さんは支援を続けていたように思うのですが、いかがです?」

「、不器用そうに定(さだ)を揺さぶりこちらの急所を的確に指当てる。警察がやってきた報せを耳に覚悟はしていました、……部屋に入ってきた瞬間は安堵が勝った。、私の見込みが甘かった。ええ、命題を紐解く期間までと我々が経費を賄っていました。室を埋めるほどの装置を彼女は必要としません、待機電力は消費しますがね。それに取り付けた屋上は太陽光吸収板(panel)が生成(つく)る微々たる自家発電量の内(なか)でと制約をつけた。 ご覧の有様。この先十年内は実(みのり)なく耐忍ぶのに、せせら笑った証ですよ。根幹を担い口へ運ぶ食の無害に太鼓判を押す、食合(たべあわ)せの原則に託(よ)せる我々の期待は解体(ほど)き組立る通過に出くわした、見慣れ見飽きた名を持つ化合物たちへ浴びせた世間の反応が耳に届くなら冷凍食品、栄養補助食品、保存食に良した配合よ総入替をまで生み出してくれ、これが本心でしたさ」

「なるほど。あえて研究者たちには有り様を伏せた、あくまでも専務さんは難儀な退職に間合ない務めへ働き手の意識を向けた。しかしですよ解析した成分(data)の活用先は、呼び寄せた彼女の仕様を目の当たりにしたか専務さんたちが彼らに知らせていた、取りだす珠を玉のままただ運べていた分析値(data)はその、。、自分たちは利用されている、遣りきれずとはぁ、僕でしたら頭にきて癇癪を起こしかねないように思うのですがねぇ」

「佐久間君が聡明であったから、一言で言えばです」

「憧憬ですか?」

「見上げた彼女へ認められるなら、彼ら研究者はそれで充分自らの信念を貫くことができた。、逝台(genuine)と据えた、私は思います。間違っても研究者などに私は成れもしない、才に選ばれもしませんがね」

 間雑音(noise)が流れる。

「新米ばっかりの部署で主任(leader)を務める彼女(そのひと)が結婚を期に退職ですかぁ。むーん……、腑に落ちませんよ。 久世さん(かのじょ)のお子さんに会われたことは?亡くなったのが三年前ですから、子供を連れて研究室に顔を出すなんてこともあったかと思うのです」

「ああぁ、銀のspoon(スプーン)を握って、こうぶんぶか振回す赤ん坊でした、覚えてますよ」

「、銀製!それってもしかして、よおく思い出して欲しいのですけれど。ひょっとして、柄(え)のところにlion(ライオン)の印章は刻(あ)りました?」

「どうでしょうかねえ、なんせ六年も前のことですから……。 少しお時間を、ええ社員ごと異動(・・)です。割れ物用の荷はまだ廊下でしょうから」

 doorが閉まる。零れた。

「表口の賑いは実験装置の搬入かと思ったけど引越しかぁ、自社tall building(ビル)に移転ねえ、受付に並ぶ数珠繋ぎは特許料を支払ってなお余まり有る共働が望み、懐は厚くて暑くてたまらんだろうなぁ。、おおっと、今間のうちに一仕事っと」

 端末。

「もしもし、お疲れ様です」

「あー疲れてるよ」

「ふてくされてますね、仕事を申し訳ありませんけど頼まれてください。後輩が達てのお願い、心して取り掛かるように」

「たいそうなご身分だな、高山秋保の入学先はひらめきが探し当てたさ、二日目の朝日を待たず一目散に留守番を先輩である俺に押し付け、自適。まったく恐ろしいご時世だよ」

「悠長にうだうだ世間話や愚痴に割くひまなし。へそを曲げたって部署には相田さんしかいないので、つまりですよ相田さんが怠慢、職務を投げ出していたことは後々熊田さんと種田にも知れ渡るんです。種田の冷ややか、視線を一月も浴びたくなければ、はい、新潟県T市は銀食器の工場(こうば)を当たってください」

「種田が言ってた凶器はknife(ナイフ)かもしれないってやつを鵜呑みにするのか?しかもなんでまた新潟なんだよ」

「米農家の喉元を抉る降続く豪雨がもたらす水の害にやられた収穫の途絶えた休田期、副職に採用された和釘の製造がT市の金属製品製造業・金属加工業発展の基礎となったので、あります」

「文面をそのまま読んでるのは見得見影(みえみえ)だ。それでなんだ『日本刀形丈(size)のknife(逸刀)を探してくれませんか?』」

「いやですよ、判りきってるじゃありませんか。あっと、もう切りますよ。依頼は依頼でも悼ましく砕けた銀食器を止状に還(もど)す言伝(ことづ)て、。いいですね、じゃ」

「いや、お待たせを。なにぶん一社員に始まり専務(この役職)を務める私ですよぉ、荷物も四箱を数えてはぁ手首だって切りますもの」皮膚に這(つた)う拍手。「さっ、申し訳ないのですがそろそろ引越しの陣頭指揮を執らなくては明日を跨いでしまう。写真(いちまい)、かろうじて存(あ)った。 逃れたと云うのが適切かな」

「拝見します」

「わたしの娘が売れ残る、四年前あたりでしょう。婚約を機に退社したのです。左端の女性が、そう。隣が佐久間君」

「どなたが撮影を?写真から社屋(ここ)の表口と読み取れます、中庭に伸びてarcade(アーチ)は向う」

「心当たりを訊こうにも研究者たちは、はい。しかも搬出を待つばかりの両袖机(desk)に今朝見つけたんです。持ち主と被写体が去ってここに届いた」

「こちら預からせても?」

「ええ、そのまま処分してください。娘の笑い顔なら尚のこと」

「 込み入った事情がお有りのようですね」

「昨年病死しまして。いやぁ省みることはありません、過ぎたことですし、まぁ過りはします、ただ目の届かない場所にと、ね」

「ほとほと嫌気が差す。愚か(ばか)な刑事は手前勝手を飽かず波打(うち)てはとかく害(そこな)えしも衛士となればこそ。、気安く借られる代物ではなかった、大切に保管してて下さい 見たい見れる時(いつか)のために。久世(かのじょ)さえ判れば僕らの用は果たせます」

「              「 」

「 」 『』」」

断わりを入れて写真を収める開閉(shutter)音。笑い顔が見切れて、気遣いへ湿り気を帯びた確認が言い渡される。白夜のよう落ちた日と失れる間が照りてら身の暖かい。

「忘れず裏返してっ、と」

「気を、使わせてしまったようですな」

「いえ、気を使わせ……」 「まてよ。研究者の行点(いきつ)く理想(すがた)を久世さんに重ねた同僚たちは親しげに肩を並べる、ああ。社の内外に亘たる部署を跨いだ交流はあったでしょうか、緊張や忌避は読み取れずでした」

「、。、。病が蝕んでいたと思います。家族に伏せ一人通院していた時期ですかね。結婚相手(いいひと)を見つけた、毎週末は夕方ごろ共に暮らす自宅に帰っていたのです、とんだこと、私の勘違いが恨めしくてうらめしく、て」

「家族だろうと容器(いれもの)は唯ひとつ。実体に被せ見せぬよう振舞った、今の僕が専務さんです」              

「「透析に通った。毎週判で押したよう休暇を届出る噂は至らず。、異変を押堪え働く事務室へ秘書が出向きます。仕事の及ぶ範囲を前の日に片付け同僚の負担をなるべく抑えていたと聞く。それでも反感は買っていたらしく 、上司には打ち明け。、専務には絶対知らせるな、主張を貫いた。居去(いな)い者のことです」

 ・・ ・・ ・・ 収録器が活限(のこり)を告ぐ。

「授(ほし)かった」

「そう思われますか」

「なんとなくですけど、羨ましいというか、はい、いつかはこうなれれば憧れが目に宿る。お話を聞いたからかもしれませんが……」 「銀のspoon(スプーン)と握する赤ん坊に微か覚えがあるのですね」

「そうです、そお、そうでした。共感に頷く者はもうおりませんが、聞くともなしに社内に飛び交う単語を専務のこの耳が覚えてますとも」

「退職者の経歴は保管されていたとしたら、久世さんの職務履歴をお借りしたい謄本(copy)でかまいません」

「借社屋(ここ)での最期の仕事だぁ。、もって来させましょう」

 渇きを潤す瞬きを許す間に叩拳(knock)、戸(door)の滑り開き閉まればレバー(knob)の突起壁へ填め合わさる。低平台(table)にcoffee(コーヒー)が置かれた。紙のコップは床鳴(tap)を踏む。配達人へ間に合えば指示が飛ぶ。

――例外を専務のみと見なす、私服や運動着の社員たちはひどく忙わしい。研究員にも制服や背広(suit)など規律を設けた会社であるのか否か判別はしかねた。一般職は義務、研究職では項目それ自体が存在しない、というのは私見に聞こえ研究者の実態に疎い以上、憶測の域を出ませんでした――不佳文を補う赤字は鈴木の加筆である。

 閉切るより間を空かず一続きに孤立と元(もど)る、女性社員は退いた。半ばに折れぬよう内へ凹む張りを保つ薄葉の書類(かみ)を受けとる、鈴木は三(み)つ折りに畳み内袋状物入(pocket)にしまう。

「生まれついた性格が災いしてか、研究者たちの色は淡白な人間(じんかん)を保つ。久世さんもその性質(type)でしたか?」

「研究室を訪れる機会とその訪問者は限られますよぉ、入出口はここよりも簡素なアルミドアですのでね。相応の用向きが備わるや戸(door)一枚隔てた彼らを拝めましょうさ。謂(い)えたとするなら割り切り(dry)よりか、そうですね私が見てる脳内(なかみ)が云いえて妙なのですがねぇ、なんとももどかしい―かまけるべきは世事にあらず、この心理でしょうね。透(とお)った忠信を宿した、一にも二にも検出の消化。疎通は九分九厘が打電通信(mail)、しかも一刻を争う打合わせの要請にも聞く耳を持たず後へ回され毎度やきもきさせられる」

「電話一本で済んでしまうような話でもぉですか?」

「電話で済むなら、打電通信(mail)でも事足りる」

「っそうか」

「頼るな。背中に書かれた久世君の声です。自身を見詰めろ、軌跡を省みるがいい。判断に困るそこでようやく対談という手段を召喚(よぶ)。それに統括指揮を執る旗手(leader)の久世(わたし)であろうと、一機を請負えし研究者だ。各機の担任らと明けた日の業務は検出の晩を流れにあわせて了解を得る労力を惜しまず課す、このようにけれど折り合いをつけて、想程を経るべきだ彼女は訴えていた。今考えると当然のことでしょうけれど、なにぶん誕生間もない会社組織に不都合を見極める手の空いた人材、余裕を持って眺められる者が欠けていた、のは、言い訳かな。 左様、初めよりことは彼女の正しきに」紙容器の足技(dance)。

「結婚と引き換えに」「 退職を申出た彼女はどのように観えました?専務さんの答えを聞くに、他人事に立入る我々(けいじ)ですよ僕なんてものは。 彼女は初恋の高鳴りに熱(やら)れ色恋が操憑(とりつ)いた」

「驚きました、憤慨はありましたさぁ。彼女らしく振舞うための、役を与えた自負はもちろんのこと、当人が機能するためあえて執権を与えていましたからねぇい 今後も会社を支えてくれるもんさとばぁかり……、本意を粗末蔑ろに役員(わたしたち)は心当てを信じきっていた」

「こうも言えるのか。彼女にとって研究を投げ出すほど劇的に生き様を覆す変化だった、それは会社に正当性を説いた人らしからぬ、そぐわない所業である」

「仰るよう、納期に影響を与えておりません。、我々が変調を察することは困難に近かった。当時、製品の成分分析を事業の柱に据え『合種降舌(variant title)』は次代を担う会社の目玉にと画策の段階でしてね、それでも佐久間君の設けた行定(schedule)を着実に遂げていましたよぉ。この一本が成分分析と共に対等な我が社財へ移るのは明白(あきら)かでした。格外の研究者のみならず市場趨勢(market)の先を読めていたはず、はあくまで姿勢を訳したまでだって。、彼女ですからぁなんといっても。佐久間久世という研究に身を捧げるタイヨウ食品の奇能を、囲い所有しておきたかった 」

「強固に地を踏み均すに、はつまり、研究環境(しごとば)を真似られ久世さんを奪われてなるものか。会社の存亡に関わる」

「然らば」「退職をのむ代わり条件はきつくせざるを得なかった。、幸い、一連の記録は社の権利である、入社時に取り交した誓約書に細かな字で隅に記載する用意周到な策を始時(はじめ)より講じていたとは、漏洩の対処が功を奏する願ってもないたまたまという珍しい奴ですよ。ちなみに。前社長は権利を訴える研究者の出現には敏感だったらしい。聞くところによれば、 研究の道に進みたかったが工場の跡継ぎに誕生したその時点で将来は決められた。会社を興したのは六十を過ぎたのちのことです、よく遣りますわ」

「その気持ちを僕は笑えないかなぁ。将来が見えたらばいそいそ退却、夢を諦めた僕とは、大違い。六十を超えて、はぁ、僕には想像もつきませんね。そこまで体力が持続(もって)いるのかどうか怪しいですし」

「期限が迫ると想いや駆立てる、重い腰でもすんなり持ちあがらぁ。それまで取り上げない工夫さえ施してきた、十二分に気力溢れんばかり。障害の一つや二つはなんのその、不自由は逆手に取る強靭な精神よ、これが余生(とき)に間に合う。資金は発行済み株式の売却によって捻出をした。奥様はかなり反対されたそうですがね」

「そうなるとです。前の社長が久世さんを旗手(leader)に抜擢したでしょう、権利とは無縁の人だったのですから」

「成分分析を創めるにあたり、常識に染まりきる手前の研究者の卵たちを青田買い、というのか大学の研究室を回る前社長があろうことに訪問先のその場で登用を決めてしまった。こと研究に関する執念たるや並々ならぬものを感じられて、事務に携わる社員たちはぞんざいに扱う、いいえぇすっかり忘れられていたのです。気は配れる方でしたから、それほど押し込めた正体だったのかと思います。 刑事さん?」

「はい、ああ、そろそろお時間ですよね。えぇっと、なんだろう。、そうですね、では最後にもうひとつだけ」

「どうぞ」

新潟県の出身であったことですよ、久世さんは同僚たちに打ち明けた、もしくは業務上知っている方がいたのか、と。もし可能であれば、思い当たる方に直接お会いしたいのです」

「居(お)られません。佐久間君の名を口にすることは研究室ではご法度、引き合いに出すつもりがなかろうとそれは彼らの研究を大いに妨げる。対抗(rival)心を忘れられては、彼らは補充した新たな研究者たちですのでね。、前任者の功績に預かるつもりは毛頭ない。それぞれの取組みがぼちぼち実得(みえ)始めてた。いや、時期は無関係ですかね、もう彼らは先人や去き者と解釈しているでしょうに、尋問はもちろんのこと、警察の意向であろうと思い出せはしない覚えてはいないのですから(・・・・・・・・・・・・)」

「無用な、各々(その)研究の外は忘れてしまえる」

「解かりませんさぁそれが彼らという人種ですのでね。そちらの手間をはぶくに移設の片付けばかり追われる。目を瞑るように解釈(とら)れますから、理由を一応は述べましてねぇ理解を仰いだ、というわけですよぉ」

「ずいぶん気を使わせたのですね」

「うんやぁそうでもありませんさ。晴れやかな心地を見せられないのが惜しいこと。引越しに付き物の鳩尾あたりに巣食うざわめきは対処の怠る未処理の記憶、なのかもしれませんさぁ気づけましたもの」

「そう言っていただけると」「、お時間をだいぶん取らせてしまいました。ご協力感謝します」

「研究者たち(かれら)に、できれば接触(ふれ)ずにお帰りいただきます。環を乱す報は阻害しますけれど、影響がないとも限りません。無理やり突かれた記憶は未整理かもわかりませんので」

「もし、可能であるならば、耐性のありそうな方にだけでもそれとなく、力を貸すよう提案をしてみてください。また訪問の機会もあるかとおもうので」

「それでは」――